
少子高齢化や核家族化、コロナ禍などで人とのつながりが希薄化し、孤独・孤立の問題が深刻化しています。特に行政の相談窓口や学校現場では、人手不足や対応時間の制約から、悩みを抱える人すべてに十分な支援を届けることが難しい状況です。
その課題解決に挑むのが、2024年設立のつながりAI株式会社(以下、つながりAI)です。同社は「孤立をなくせ」をミッションに掲げ、AI技術を活用した革新的なサービスで誰もが気軽に相談できる社会インフラの実現を目指しています。
この記事では、自治体向け「相談AI」と学校向け「友達AI」という2つのサービスを中心に、事業内容や独自性、今後の展望をご紹介します。
相談AI:24時間いつでも誰かが話を聞いてくれる行政窓口

- サービス概要
自治体の住民相談窓口に、対話型の傾聴AIを導入するサービスです。住民からの電話やチャットでの相談にAIが24時間365日対応し、悩みを丁寧に傾聴・応答します。必要に応じて適切な部署や支援機関への案内も自動で行い、人とAIの協働で相談業務を支援します。 - 解決する課題
行政の相談窓口では、高齢者の孤独や生活困窮、子育て相談など多岐にわたる相談が寄せられます。しかし専門相談員の数や対応時間には限りがあり、「相談したくてもできない人」が生じていました。政府も孤独・孤立対策として「24時間対応の多元的な相談支援」を掲げていますが、人員を確保するのが難しい現状です。
相談AIは、こうした課題に対し、対応率100%の窓口体制を目指し、どんな時間でも誰もが相談できる環境を実現します。 - 独自性
単なるFAQチャットボットとは異なり、相談AIは傾聴対話に特化している点が特徴です。最新の生成AI(大規模言語モデル)を活用しつつ、相談内容に共感し寄り添う対話ができるようチューニングされています。また、利用者の許可を得て深刻なケースは専門スタッフや地域の支援機関と連携する仕組みも備えており、人間の判断とAIの24時間対応力を組み合わせて安全性と信頼性を高めています。 - ターゲット層
日本全国の地方自治体(都道府県・市区町村)や行政機関が主な導入先です。特に、福祉や暮らしの相談窓口を抱える自治体、夜間休日の相談対応に課題を持つ自治体がターゲットとなります。
また、住民から見ると高齢者から子育て世代、若年層まで幅広く、誰もが利用者になり得ます。例えば、「誰にも相談できない」と感じがちな若者やひきこもり状態の方にも、匿名で相談しやすい窓口として機能します。 - 利用メリット
自治体側には業務効率化と対応漏れ防止のメリットがあります。AIが一次対応することで職員の負担を軽減しつつ、深夜・休日でも住民の声を受け止めることが可能です。
実際、兵庫県姫路市の実証実験では2ヶ月で521件もの相談をAIが受け付け、対応しきれなかった層(特に10~30代の若年層)からの新たな相談を掘り起こしました。利用者にとっても、待たされない安心感や「人ではないから気軽に話せる」という心理的ハードルの低さが利点です。相談AIにより、行政サービスの質向上と誰一人取り残さない包括的支援が期待できます。
友達AI:生徒の言えない悩みを拾う24時間AI相談窓口

- サービス概要
学校教育の現場で、生徒の悩み相談相手になってくれるAIチャットボットです。いじめや友人関係、家庭環境など、学校では相談しにくい悩みを生徒が気軽に打ち明けられる「AIの友達」として機能します。生徒はスマートフォンやPCを通じて匿名でAIに話しかけることが可能です。必要に応じて、学校のスクールカウンセラーや教師に連絡が行く仕組みも整備されます。 - 解決する課題
日本の学校では、いじめの件数が過去最多の68万件(令和4年度)にのぼり、不登校も年々増加しています。しかし「誰にも相談できなかった」生徒も、小学生の36%、中学生では42%に及ぶのが現状です。相談先がないまま悩みを抱え込んだ結果、最悪の場合自傷行為や不登校・退学につながるケースもあります。また、多くの学校でスクールカウンセラーの勤務日は週1回程度と限られ、生徒全員のケアは難しい状況です。
友達AIは、生徒の孤独やSOSを見逃さないためのソリューションです。AIが24時間生徒の話し相手となることで、「相談できる人がいない」「夜中に不安で眠れない」といった状況でも支えになります。これにより、いじめやメンタル不調を早期発見・早期介入し、生徒の命と心を守る一助となります。 - 独自性
友達AI最大の特徴は、生徒にとってまるで友達のように話せるAIである点です。一般的な教育相談ツールが教師や大人目線なのに対し、友達AIはあくまで生徒の気持ちに寄り添う設計になっています。
例えば、LINE風のカジュアルな対話画面で、敬語ではなくフランクな口調を用いるなど、生徒が本音を引き出しやすい工夫を凝らしています。またAIにはカウンセリング分野の知見が組み込まれており、生徒の発言から危険兆候を検知すると専門家にエスカレーションするなど、安全面でも配慮しています。さらに学校ごとに相談内容の傾向データを分析し、いじめ防止や生徒指導の施策立案に活かせるレポート機能も備える予定です。
こうした点で、生徒の「心のよりどころ」と学校の「見守り強化」を両立する独自サービスとなっています。 - ターゲット層
主な導入先は中学校・高等学校など思春期世代を預かる教育機関です。特に、生徒指導やメンタルヘルス対策に力を入れる自治体・教育委員会、いじめ防止プロジェクトを進める学校法人などが想定されます。利用者である生徒側は、中高生を中心に、小学校高学年や大学生まで幅広く検討されており、「相談相手がいない」「友達にも言えない悩みがある」というすべての学生が潜在ユーザーです。保護者にとっても、子供が匿名で専門的な相談支援を受けられる安心材料となるでしょう。 - 利用メリット
生徒にとっては、いつでもどこでも悩みを聞いてもらえる安心感を得られる点が最大のメリットです。実証実験では「先生や家族に言えないこともAIになら話せる」「誰にもばらされないから安心」などの声が多数寄せられ、満足度も93.6%と非常に高い結果が報告されています。友達AIに打ち明けることで心が軽くなり、実際に不登校を未然に防げたケースも出ています。
学校側には、生徒の隠れたSOSを把握できるメリットがあります。AIとのチャット内容(プライバシーに配慮した上で)からいじめの兆候やメンタル不調を早期に検知し、問題が深刻化する前に対応することが可能です。また、限られたカウンセラーや教員では手が回らない放課後や深夜のケアを補完できるため、教職員の負担軽減と安心感にもつながります。ひいては、生徒一人ひとりが安心して学校生活を送れる環境づくりに寄与するでしょう。
資金調達:2025年4月30日のプレスリリースで約6,000万円を調達

つながりAIは2025年4月30日付けのプレスリリースで、エンジェルラウンドにおいて約6,000万円の資金調達を実施したと発表しました。リード投資家として参加したのはエンジェル投資家の有安伸宏氏(マネーフォワード創業者)で、他にも東京大学大学院 松尾豊教授やシードVCのANRI佐俣アンリ氏、ヘルスケアベンチャー経営者など錚々たる個人投資家が名を連ねています。
調達した資金は、前述の「相談AI」および「友達AI」のサービス開発加速とエンジニア採用強化に充てられます。代表の駒崎氏は「AIの力で誰も孤立しない社会を創るという想いに共感し、多くの投資家が力を貸してくれたことに感激している。この支援を糧にプロダクト開発を加速し、志を同じくする仲間を迎え入れていく」とコメントしており、今後の事業展開に向けた意気込みを語っています。創業間もないインパクトスタートアップながら、社会課題解決へのビジョンが評価され強力な支援者を得た形です。
資金調達方法はエンジェルラウンド(株式による出資)であり、現時点でベンチャーキャピタルからの大型出資ではありません。とはいえ、駒崎氏自身がNPO法人フローレンスを20年にわたり率いてきた実績を持つ社会起業家であることから、今後の追加調達や事業提携においても注目を集める可能性があります。実際、同社には社会的インパクトを重視する投資家が集まっており、「孤立ゼロ」を目指すビジョンへの期待の大きさがうかがえます。
今後のサービス開発の進捗次第では、シードラウンドやシリーズAでの更なる資金調達も視野に入れていることでしょう。
市場規模:国内生成AI市場、2030年には約1兆7,774億円まで到達

行政や教育分野へのAI活用は、日本国内でも需要が高まっています。
ある調査によると、全国の68%の自治体が生成AIの活用に前向きで、既に試験導入を進める自治体も出始めている状況です。実際、姫路市や柏市などでAI相談サービスの実証が行われ、住民・生徒から概ね好評な結果が報告されています。こうした動きもあり、国内の生成AI関連市場は今後急成長していく見通しです。
民間調査では、日本の生成AI市場規模は2023年時点で約1,188億円、2030年には約1兆7,774億円(約15倍)に達すると推計されています。年平均成長率(CAGR)にすると約47.2%という驚異的な伸び率で、行政・教育向けソリューションもその一部を担うと考えられます。

一方、世界市場に目を向けると、2023年に約106億ドルだった生成AI市場が、2030年には約2,100億ドル規模に達する見込みです。近年のChatGPTブームもあり、顧客対応やカスタマーサポート用途だけでなくメンタルヘルスケア領域へのAI活用が世界的に注目されています。
こうした市場動向の中で、つながりAI株式会社の提供する「相談AI」「友達AI」は非常にユニークなポジションを占めています。競合としては、行政向けのチャットボット開発企業や教育向けの学習支援AIサービス等が存在しますが、孤独・孤立という社会課題の解決を正面から掲げたプロダクトは稀です。まさにテクノロジーと社会福祉の交差点に立つサービスであり、日本初の試みとして国内外から注目される可能性があります。
今後、各自治体や学校で実績を積みながら、ゆくゆくは海外のコミュニティや教育現場への展開も視野に入れているかもしれません。市場規模が拡大する中で、社会的インパクトと事業性の両立を図るスタートアップとして独自の地位を築くことが期待されます。
会社概要
- 会社名: つながりAI株式会社(Tsunagari AI Inc.)
- 所在地: 東京都新宿区新小川町5-6-209
- 設立: 2024年
- 代表者: 代表取締役 駒崎 弘樹
- 公式HP: https://tsunagari-ai.com/
まとめ
つながりAI株式会社の「相談AI」「友達AI」は、AI技術によって行政サービスと教育現場の隙間を埋める革新的な挑戦です。人とAIが補完し合うこれらのサービスにより、これまで支援の手が届かなかった人々に新たなつながりを提供できる可能性があります。
同社はまだ創業間もないスタートアップですが、社会課題解決への強い意志と最先端AI活用のノウハウを武器に着実に歩みを進めています。
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