
少子高齢化が進む日本において、従業員の将来資産形成を支援する企業年金・退職金制度はますます重要性を増しています。しかし、多くの中小企業では制度が未整備で、結果として大企業と比較して従業員の老後資金準備に格差が生じています。
株式会社ベター・プレイス(以下、ベター・プレイス)は、「お金の心配なく、自分らしく働ける社会」を目指し、企業年金制度の導入支援とDX化によってこの課題に挑むスタートアップです。本記事では、同社の事業内容、社会的意義、成長戦略について紹介します。
事業内容:企業年金を身近にする3つの柱
ベター・プレイスは、企業年金に関する3つのサービスを展開しています。
- 企業年金DXシステム「はぐONE」
- 福祉はぐくみ企業年金基金(はぐくみ企業年金)
- 企業型DC制度導入支援サービス「つみたてDC」
以下の記事で詳しく解説していきます。
企業年金DXシステム「はぐONE」

ベター・プレイスが提供する「はぐONE」は、中小企業の企業年金制度を支えるクラウド型管理プラットフォームです。PCやスマートフォンからアクセスでき、企業側・従業員側の双方にとって利便性の高い仕組みを提供しています。
主な特徴
- 事務手続きのDX化:紙の書類に頼らず、以下の手続きがオンラインで完結します。
- 掛金の拠出申請
- 加入・脱退などの情報登録
- 管理者側の確認・承認業務
- 従業員にとってのメリット:
- 拠出掛金の変更手続きがオンラインで簡単
- 現在の積立残高をウェブ上で即時確認可能
- 年金を“自分のもの”として把握しやすくなり、資産形成意識の向上につながる
2025年には本システムのスマートフォンアプリ化と機能強化が進められており、ログインの簡便化やプッシュ通知によるお知らせ機能など現行加入者がより使いやすい仕組みを開発中です。将来的には、退職金の受け取り後も継続してライフプランニングを支援できるサービスへと進化させる構想も打ち出しており、「はぐONE」を核としたプラットフォーム上に金融サービスや生活サポート機能を統合していく計画です。これにより、単なる企業年金管理ツールに留まらず、従業員の生涯にわたるお金の相談役となることを目指しています。
福祉はぐくみ企業年金基金(はぐくみ企業年金)

「はぐくみ企業年金」は、2018年に厚生労働大臣認可の下で設立された中小企業向けの確定給付企業年金(DB)基金です。当初は保育・介護といった福祉業界の従業員の福利厚生支援を目的に始まりましたが、現在では全国の中小企業に対象を広げ、急速に導入が進んでいます。
制度の成長と実績
- 導入企業数:約3,000社
- 加入従業員数:約8万人(うち直近1年で約3万人増加)
- 推奨団体・提携金融機関:業界団体による推薦、地方銀行ネットワークによる紹介が拡大を後押し
制度の特徴
- 元本保証付きの確定給付年金を中小企業が共同で導入できる設計
- 資産運用は大手生命保険会社に委託、万一の損失は事業主拠出で補填
- 加入対象が広い:
- パート・契約社員などの非正規雇用者
- 役員を含む厚生年金被保険者
加入効果と現場の声
- 従業員の年金参加率(加入率):平均約70%
- 主な効果:
- 福利厚生の充実によりエンゲージメントと定着率が向上
- 人材確保・採用競争力の向上
- 実際の声:「離職が減り、採用にも良い影響が出ている」
- 福祉・介護業界の声:「コストを抑えながら職員の定着率が改善した」
ベター・プレイスの役割
ベター・プレイスは、「はぐくみ企業年金」の加入促進・導入支援の業務受託機関として、以下を一貫して提供しています
- 制度の説明と設計コンサルティング
- 加入・導入手続きのサポート
- 導入後の運用サポート
これにより、専門性の高い企業年金制度をワンストップで導入・運用できる体制により、中小企業の経営者にとって心強い存在となっています。
企業型DC制度導入支援サービス「つみたてDC」

ベター・プレイスは確定給付年金(DB)に加え、企業型確定拠出年金(DC)の導入支援も行っています。企業型DCは、企業が拠出した掛金を従業員が自己運用する年金制度で、資産形成意識の醸成が期待されますが、中小企業では導入ハードルが高い制度でもありました。
「つみたてDC」はこの課題に対応する中小企業向けDC支援サービスで、特に「選択制DC」の導入を前提とした設計が特徴です。
選択制DCのメリット
- 従業員側:希望者が給与の一部をDC掛金として拠出可能(任意)
- 企業側:社会保険料負担の軽減 → 間接的なコスト削減効果
導入の柔軟性
- 加入者1名から導入可能:極小規模企業でも対応
- 数名規模の実績あり(※企業状況により導入可否あり)
運用商品とサポート体制
- 厳選された商品ラインナップ:
- 元本確保型定期預金
- バランス型ファンドなど初心者向けも充実
- 金融庁登録の運営管理機関として、運用・管理の煩雑な手続きをワンストップで支援
自助努力型資産形成の選択肢に
「つみたてDC」は、従業員が自分の判断で資産を育てる環境を中小企業でも整えることができる制度です。
「はぐくみ企業年金(確定給付型)」と「つみたてDC(確定拠出型)」の2本柱により、ベター・プレイスはあらゆる中小企業にとっての退職金制度支援パートナーとなっています。
資金調達:シリーズDで総額3.7億円を調達、累計調達額は約19.1億円に

ベター・プレイスは2025年4月にシリーズD、第三者割当増資にて総額3.7億円を調達し、累計調達額は約19.1億円に達しました。
本ラウンドで調達した資金の使途として、ベター・プレイスが開発した企業年金DXシステム「はぐONE」のアプリ化と機能強化を進めてまいります。今後は「はぐくみ企業年金」の加入中だけではなく、退職して積立金を受け取った後も継続的にお金のサポートを受けられるライフプラン支援の提供など、加入者の人生に長期的に寄り添うツールとなることを目指しています。
出資の特徴
- 参加ファンド:アセットマネジメントOne、レオス・キャピタルワークスなどのクロスオーバー型ファンド
- クロスオーバー投資とは:未上場企業への出資後、上場後も保有を継続する長期的投資手法(日本では2023年より本格解禁)
- 評価ポイント:同社の成長性と社会的意義が、長期投資にふさわしいと評価され採択
その他の出資者
- パーソルホールディングス(人材大手)
- freee(クラウド会計大手)
- 地方銀行系VCなど
提携ネットワークと展開
- 地方銀行27社との業務提携により「はぐくみ企業年金」を地域企業へ展開
- 2024年にはパーソルグループと資本業務提携:
- 退職金制度導入による中小企業の採用力・従業員エンゲージメント向上を支援
これらの出資と提携体制は、同社の全国的な事業拡大と退職金制度の普及を強力に後押ししています。
市場規模:企業年金、中小企業への導入が鍵か
日本の企業年金・退職金制度を取り巻く環境は、近年大きく変化しています。少子高齢化や年金制度への不安が広がる中、国は「自助努力による資産形成」を促進するための制度改革を進めてきました。具体的には、NISAやiDeCoの拡充、2022年の企業型DC(確定拠出年金)への加入可能年齢の上限引き上げ(65歳未満から70歳未満へ)、さらに2024年12月には、企業年金加入者でもiDeCoに月額2万円まで加入可能とする規則改正が予定されています。これにより、企業年金と個人年金の併用が可能となり、より柔軟な老後資産形成が実現されつつあります。
一方で、中小企業における退職給付制度の整備はまだ十分とは言えません。たとえば、従業員30~99人規模の企業における制度導入率は約70%あるものの、その多くは中小企業退職金共済(中退共)などの一時金制度であり、企業年金まで導入している企業は限定的です。こうした背景から、中小企業向けの企業年金制度には数千億円規模の新たな市場成長の余地があると考えられています。
実際、ベター・プレイスが展開する「はぐくみ企業年金基金」は、設立からわずか数年で加入者数8万人を突破し、急速に拡大しています。また、同社は士業との連携にも注力しており、2024年度には税理士経由での新規導入実績が前年比190%増という顕著な伸びを記録しました。中小企業の間で“お金の福利厚生”に対する関心が高まりつつある現在、この分野は本格的な成長フェーズに入りつつあるといえるでしょう。
会社概要(基本情報)
- 社名(英語表記): 株式会社ベター・プレイス(Better Place, Inc.)
- 所在地: 東京都新宿区市谷本村町1-1 住友市ヶ谷ビル15F
- 代表者: 代表取締役社長 森本 新士(もりもと しんじ)
- 設立: 2011年10月17日
- 公式サイト: https://bpcom.jp/
まとめ
ベター・プレイスは、企業年金という社会課題に対し、デジタル技術と専門的なコンサルティングを融合させたサービスで中小企業の退職金制度整備を支援するスタートアップです。「お金の心配なく働ける社会」の実現に向けて、今後のベター・プレイスの展開に大きな期待が寄せられています。
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