最終更新日 25/05/15
国内スタートアップ

デジタルバイオマーカーで医療課題解決に挑むヘルスケアDX「テックドクター」

AIITヘルスケア医療高齢者
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(引用:公式HP

高齢化の進行や慢性疾患の増加、メンタルヘルス問題など、医療・ヘルスケア分野は多くの社会課題に直面しています。こうした課題に対し、今注目されているのが「デジタルバイオマーカー」です。これはスマートフォンやウェアラブルデバイスから得られるデータを活用し、病気の兆候や治療効果を継続的に可視化する新たな指標であり、従来の一時的な診療データに対して“日常の変化”を捉えることができる点で大きな進化をもたらしています。

特に客観的な指標が少ない精神疾患領域では、体調の変化を継続的に記録・分析できるデジタルバイオマーカーは、本人や医療者の意思決定を支える大きな可能性を持っています。こうした中、デジタルデータで健康状態を“見える化”し、個別最適なケアの実現を目指しているのが株式会社テックドクター(以下、テックドクター)です。同社は「データで“調子”をよくする時代へ」をビジョンに、デジタルバイオマーカーの社会実装に取り組んでいます。

本記事では、テックドクターの中核プロダクトである「SelfBase(セルフベース)」と「Health Portal(ヘルスポータル)」を中心に、同社の取り組みと市場動向、事業成長の全体像をご紹介します。ぜひ最後までご覧ください。

事業内容:データ活用プラットフォーム「SelfBase」と「Health Portal」

(引用:公式HP

SelfBase(セルフベース)とは

SelfBaseは、複数のウェアラブル機器や医療機器から収集した生体データを統合・解析するBtoB向けクラウドプラットフォームです。研究者や企業のニーズに応じて大量データを一元管理し、専門的な解析を自動化することで、分析にかかる手間とコストを大幅に削減します。主な特徴は以下のとおりです。

  • 複数デバイスから長期連続データ収集・可視化:Fitbitなどのスマートデバイスや各種医療機器から24時間データを取得・クラウド管理。
  • 専門アルゴリズムによる自動解析とレポート生成:医学・データサイエンスの知見を反映し、傾向分析や治療効果の評価に対応。
  • 質問票データ等との統合分析:質問票データと生体データを組み合わせて因果関係を分析、新たな指標発見も可能。

2020年の提供開始以来、SelfBaseは60以上の企業・機関に導入され、100件超の産学共同研究を実施しました。また、創薬・臨床研究や健康モニタリング、予防プログラムなど多分野で活用されています。直近では、妊産婦のメンタルヘルスを対象とした産後うつの早期検出研究も進行中です。

Health Portal(ヘルスポータル)とは

Health Portalは、SelfBaseで蓄積・解析された生体データを外部サービスに活用するための開発プラットフォームです。企業や団体が自社のアプリやプログラム医療機器(SaMD)などに、生体データ解析機能を組み込む際の基盤として活用されます。

  • 用途例
    • 製薬企業:治療薬の効果を測定・追跡する遠隔モニタリングアプリの開発。
    • 保険会社:被保険者のウェアラブルデータを活用した健康支援サービスの提供。
  • 仕組み:SelfBaseで集めた個人データをHealth Portal経由で連携し、テックドクターの独自アルゴリズムを適用してユーザーへフィードバックを提供。
  • 強み:医師・医学研究者・データエンジニアが多数在籍する専門チームにより、実証されたアルゴリズムを信頼性高く提供可能。

SelfBaseが研究開発の「エンジン」だとすれば、Health Portalはその成果を製品やサービスに展開する「橋渡し役」として、データ駆動型ヘルスケアの社会実装を後押ししています。

デジタルバイオマーカーの社会的意義と市場動向

社会的意義

デジタルバイオマーカーは、連続的に取得できる生体データを活用し、疾患の早期発見や再発予防に貢献する技術です。これによって、心不全や糖尿病などの慢性疾患において遠隔モニタリングを通じて患者の自己管理を促進し、医療者のタイムリーに介入することが可能です。さらに医療費削減在宅医療推進といった社会的メリットも期待されています。

また、高齢化が進む日本では、dBMの活用による介護予防や医療従事者の負担軽減が今後さらに重要になります。また創薬領域でも、新薬の効果評価や治験の効率化を目的に製薬企業が活用を進めており、日本製薬工業協会も2023年にdBM活用の指針を発表するなど、業界全体が社会実装に向け動いています。

国内外の活用動向

  • 海外:米FDAがガイドライン整備を進め、Apple Watchによる心電データ活用や歩行解析などの活用事例が増加しています。また、欧州でもアルツハイマー病などのモニタリングにデジタル技術が導入されていて、臨床試験においてもdBMが評価項目として広く活用されており、市場は急成長中です。
  • 市場規模:2023年の世界市場規模は約34億ドル、2032年には約492億ドルへ(CAGR:34.4%)と予測されています。成長要因は、ウェアラブルの普及健康志向の高まり治験数の増加などです。
  • 日本:遠隔医療や健康管理アプリ、自治体の見守り事業などで導入が進み、製薬大手やスタートアップが開発に注力しています。国内のデジタルヘルス市場も2024年に186億ドル、2033年には897億ドルに成長する見通しで、dBM領域も拡大中です。

テックドクターの事業モデルと導入実績

(引用:公式HP

テックドクターはBtoBのSaaSモデルで収益を得ており、SelfBase・Health Portalの利用料に加え、データ解析やアルゴリズム開発支援も提供しています。顧客は製薬会社、保険会社、企業の健康管理部門、大学・医療機関など多岐にわたります。導入例は以下の通りです。

  • 国立精神・神経医療研究センターや信州大学などで研究支援ツールとして採用。
  • 製薬企業の創薬研究や治験、食品業界の効果検証、保険業界のヘルスケアサービス開発にも活用。

テックドクターの強みは、医師・研究者・AIエンジニアで構成された専門チームによる、医学的妥当性とテクノロジーの融合です。創業者の湊和修氏も医師であり、精神科領域の研究経験を背景にメンタルヘルス課題解決に取り組んでいます。SelfBaseでは累計1,000人以上の被験者データを扱い、得られた知見は次世代サービスの設計に生かされています。

今後はAIを活用した予測モデルの導入を進め、個々人に最適なケアを提供する「AI医療」の実現を目指しています。

資金調達:シリーズBで約12億円を調達、累計18億円に

テックドクターは2025年5月にシリーズBラウンドで総額約12億円の資金調達を実施しました。これにより累計調達額は約18億円です。シリーズBは既存株主の追加出資に加え、事業会社からの戦略的出資も受け入れた点が大きな特徴です。これはテックドクターの技術が、製薬以外の異業種から見ても将来の事業機会につながると評価されたことを意味します。

調達した資金は同社のコア技術であるデジタルバイオマーカーの社会実装を更に加速すべく、AIを組み合わせたソリューション開発や人材強化に充てられる予定です。「データに基づくAI医療」を実現し、デジタルバイオマーカーを医療の現場に定着させていく――そのビジョンに向け、テックドクターは着実にステージを上げています。

資金調達概要

  • 調達額:約12億円(※第三者割当増資と銀行融資の合計)
  • 調達時期:2025年5月
  • 調達ラウンド:シリーズB
  • 主な出資者(第三者割当増資の引受先)

・ジャフコ グループ株式会社
└ ジャフコSV6投資事業有限責任組合
└ ジャフコSV6-S投資事業有限責任組合

・日本ベンチャーキャピタル株式会社(NVCC)
└ NVCC9号投資事業有限責任組合
└ デジタルヘルスファンド大阪投資事業有限責任組合

・三井住友海上キャピタル株式会社(MSIVC2023V)

・大和企業投資株式会社(DCIベンチャー成長支援2号)

・ミライドア株式会社(あすか製薬CVC)

・山口キャピタル株式会社(UNICORN2号ファンド)

・りそなキャピタル株式会社(第8号ファンド)

・小野薬品工業(小野デジタルヘルス投資合同会社)

・ライオン株式会社

市場規模:デジタルヘルス/デジタルバイオマーカー市場の拡大

テックドクターが注力するデジタルヘルス市場は、世界的にも成長が著しい分野です。フォーチュン・ビジネスインサイツの調査によると、世界市場は2025年に約427億ドル2032年には約1,500億ドルへと成長し、年平均成長率は約19.7%と予測されています。日本国内でも同様に年率19%前後で成長し、2030年代初頭には現在の約5倍に達する見込みです。

この中でも、テックドクターの中核技術であるデジタルバイオマーカー市場は特に高い伸びが期待されています。2024年時点での市場規模は約36億ドルとされ、2029年には90億ドル、さらに2032年には最大で約500億ドルに達する可能性も示されています。医療×ICTの融合市場は現在、急速な立ち上がり期にあり、資金・人材ともに世界中からの注目が集まっています。

会社概要

  • 会社名:株式会社テックドクター(TechDoctor, Inc.)
  • 所在地:東京都中央区京橋二丁目2番1号 京橋エドグラン4階
  • 設立:2019年6月21日
  • 代表者:代表取締役 CEO 湊 和修(みなと かずのぶ)
  • 事業内容:デジタルバイオマーカー開発プラットフォーム「SelfBase」およびヘルスケアサービス開発プラットフォーム「Health Portal」の開発・提供
  • 公式サイトhttps://www.technology-doctor.com

まとめ

デジタルバイオマーカーは、生体情報を可視化し、個別最適な医療や予防ケアを実現する鍵であり、テックドクターは、その領域で日本発の先進ソリューションを提供する注目スタートアップです。

業界横断の連携と実証が進めば、誰もがデータに基づいたヘルスケアを享受できる社会が実現するでしょう。予防医療の推進、QOL向上、医療費の削減といった社会的インパクトを見据え、テックドクターの今後の展開に引き続き注目が集まります。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

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