最終更新日 25/05/31
国内スタートアップ

株式会社Jij|量子×数理最適化で業務効率とDXを加速

AIIT大学発
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(引用:公式HP

近年、物流や設備制御など産業現場での数理最適化の重要性が高まっています。AIやIoTによって予測精度は向上した一方、複雑な条件下で最適な意思決定を行うには高度な計算が必要で、従来の技術では限界がありました。特に配送ルートなどの組合せ最適化問題では、解探索が困難で人の勘に頼るケースも多く、産業課題となっています。

この課題に対し登場したのが、東京工業大学発のスタートアップ「株式会社Jij(以下、jij)です。同社は、量子計算や数理最適化の専門家によって2018年に設立され、研究と実用のギャップを埋めるべく活動。量子アニーリングなどの先端技術を活用し、数理最適化のプロジェクト立案から実行までを一貫して支援しています。

本記事ではJijの事業の2本柱である、プロダクト開発コンサルティング支援やその他の事項についても詳しく紹介していきます。ぜひ最後までご覧ください。

事業内容①:最適化ミドルウェア開発「The JijZept Series」

(引用:公式HP

jijは「JijZept(ジェイアイジェイ・ゼプト)」と呼ばれる数理最適化プラットフォームを自社開発しています。これは複雑な最適化問題をユーザーが専門知識なしにモデリング・解決できるクラウドサービスであり、量子アニーリングマシン等の先端ハードウェアも意識せず利用可能にする“ミドルウェア”です。JijZeptには数理モデルを数式のように記述できるモデリングツールや最適化ソルバー群、ベンチマーキング機能が搭載されており、複数のソルバー(量子アニーリング機、デジタルアニーラ、逐次焼きなましアルゴリズムなど)に対応しています。

特徴的なのは問題の定式化を支援する機能で、これにより非専門家でも複雑な制約付き最適化問題を簡便にプログラミングできます。実際、ある大手SIerがJijZeptを導入したところ、開発工数を最大70%削減できたとの評価報告があります。またJijは自社アルゴリズムの一部を**オープンソース(OpenJij)として公開しており、研究コミュニティとの協調や技術普及にも力を入れています。

コンサルティング・共同研究「Professional Service」

(引用:公式HP

また同社は各産業領域の企業に対し、最適化技術の導入コンサルティングや共同研究開発を行っています。最適化課題は業界や業務によって千差万別であるため、Jijの専門家が企業と協働しながら問題設定から解法開発、シミュレーション検証、実装まで支援します。直近では通信業界でのネットワーク制御の安定化、エネルギー業界での電力・ガス供給の需給最適化、金融業界での生命保険ポートフォリオ最適化などでPoC(概念実証)を実施しました。

こうした実績を通じ、製造業や社会インフラ、物流、さらには材料開発シミュレーションや機械学習の高速化など、様々な分野への適用が広がっています。実際のユースケースも増えており、例えば東邦ガスではコージェネレーションシステムの最適運用で協業し、KDDIとは通信ネットワークの最適化に取り組むなど、業界大手との共同プロジェクトが公表されています。

これらを可能にしているのが、Jijの異分野融合チームです。ビジネス開発担当が企業の課題から価値の高い組合せ最適化問題を発掘し、研究者チームが量子計算・統計物理の理論に基づく新たなアルゴリズムを考案ソフトウェア開発チームがクラウド上に堅牢なサービスとして実装するという体制で、最先端技術を産業に実装しています。国内外では富士通、NEC、東芝、カナダD-Wave社、米Microsoft社などハードウェア提供企業との連携も進めており、扱える問題の幅を拡大中です。こうしたエコシステムにより、Jijは「量子×最適化」の社会実装を先導しています。

実績:豊田通商の信号機制御最適化プロジェクト – 20%の待ち時間削減に成功

Jijの代表的な実績として注目を集めたのが、豊田通商と共同で行った交通信号制御の最適化プロジェクトです。2020年、Microsoftのクラウド基盤「Azure Quantum」の量子インスパイアード最適化(QIO)を活用し、都市交通の信号タイミングを全体最適化する取り組みが行われました。

従来の方法では交差点ごとに手動調整が必要でしたが、Jijは車の流れ全体をモデル化し、信号の最適オフセットを一括導出。結果、信号待ち時間を平均20%削減することに成功しました。この成果は国際メディアでも報じられ、スマートシティやカーボンニュートラルの実現に資する取り組みとして高く評価されています。

さらにJijは、Azureに限らずNECのスーパーコンピュータなど多様な計算環境に対応。特定ハードに依存しない柔軟な最適化基盤「JijZept」を通じて、より幅広い業界ニーズに応える体制を整えています。

導入企業にもたらすメリット

Jijの包括的な支援により、企業は数理最適化の導入を通じて多くのメリットを得ています。たとえば製造業では、JNCが生産計画の作成時間を6時間から1分に短縮し、業務効率と対応スピードが飛躍的に向上しました。また、最適化によって資源の無駄を減らすことで、在庫やエネルギー、人件費の削減といったコスト面でも成果が期待できます。

さらに、最適化技術はダイナミックプライシングやリアルタイム配車など新たなサービス創出や競争力強化にも寄与しています。またPoCから段階的に導入を進められるため、リスクを抑えたDX推進が可能です。Jijは単なるツール提供にとどまらず、企業と伴走しながらノウハウ蓄積や人材育成も支援することで、経営層・技術者の双方に高い価値を提供しています。

資金調達状況と創業背景

(引用:公式HP

株式会社Jijは2018年11月に創業された東京工業大学発のディープテックスタートアップです。量子アニーリングの研究成果をもとに、JSTの支援や共同研究を経て事業を拡大してきました。2020年にはANRIやDEEPCOREなどから約2億円を調達(プレシリーズA)し、自社最適化クラウド「JijZept™」の開発を加速しています。2023年には正式版の一般提供も開始されました。

創業者の山城悠氏は東工大・西森研究室出身の研究者で、CTOの西村公志氏らと共に“研究と産業の橋渡し”をミッションに掲げています。現在は欧州進出も視野に入れ、資本提携や海外拠点設立の動きも進行中です。「すごいベンチャー100」にも選出されるなど、注目の量子最適化ベンチャーとして着実に成長しており、さらなる活躍が期待されます。

数理最適化・量子コンピューティング市場規模とJijのポジション

世界の量子コンピューティング市場は2035年にグローバルで70兆円、その内数理最適化を含む関連分野では37兆円規模と急成長が予測されています。日本でも量子技術は政府の重点投資領域となっており、物流・製造・金融・創薬など多様な業種での活用が期待されています。

こうした中でJijは、量子コンピュータ本体ではなくソフトウェアプラットフォームに特化したユニークな立ち位置を築いています。特定ハードに依存しない“アグノスティック”なアプローチにより、柔軟に計算資源を使い分けられるのが強みです。

国内の競合と異なり、JijはOSSの公開やMicrosoft・D-Waveなど海外企業との連携を通じ、グローバルな量子エコシステムにも参画。2023年には英国支社も設立し、産業DXを支える先行プレイヤーとして国際的な存在感を高めています。

会社概要(基本情報)

  • 会社名:株式会社Jij(英文:Jij Inc.)
  • 所在地:東京都港区芝浦三丁目3番6号 東京科学大学キャンパス・イノベーションセンター INDEST 403号室
  • 設立:2018年11月
  • 代表者:山城 悠(やましろ・ゆう)代表取締役CEO
  • 公式HPhttps://www.j-ij.com/

まとめと展望

データ活用と意思決定の高度化が進む中、数理最適化と量子コンピューティングは産業競争力の鍵を握る技術となりつつあります。Jijはその最前線で、プロジェクトの立案から実装までを一貫支援し、「技術を現場の力に変える」役割を担っています。

豊田通商との信号最適化の成功に見られるように、量子技術×実務知見×スタートアップの機動力が大きな成果を生む時代が到来しています。今後はJijのプラットフォームが、物流やエネルギー、新素材など多分野での価値創出を後押しする存在になるでしょう。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

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