最終更新日 25/05/28
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【Persist AI】AIとロボティクスで革新する製剤開発プラットフォーム

AIヘルスケア
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(引用:PR TIMES)

新薬開発において、薬の有効成分を患者が服用できる形(錠剤・注射剤など)に加工する製剤化の工程は、熟練技術者の経験に頼る部分が大きく、試行錯誤に膨大な時間とコストを要することが課題です。

実際、従来の製剤開発には最長で8~12年かかり、新薬開発全体コストの約20%を占めるとの指摘もあります。このボトルネックにより、有望な新薬候補が患者に届くまでに長い年月を要していました。

Persist AI(パーシスト・エーアイ)はこの課題解決に挑む米国スタートアップで、AIとロボット技術を駆使して製剤開発プロセスを大幅に効率化し、開発期間を従来の約半分に短縮することを目指しています。

本記事ではPersist AIの事業内容やサービス、資金調達、市場展望について詳しく紹介します。

事業内容:AIとロボティクスで革新する製剤開発プラットフォーム

① クラウドラボを通じた自動化製剤開発

(引用:Persist AI ホームページ

Persist AIの中核サービスは、自社開発のロボットラボ(クラウドラボ)を活用した製剤開発支援です。同社プラットフォームでは、従来は研究者が手作業で行っていた製剤処方の設計・実験をロボットによる自動化とAIモデルの予測によって大幅に効率化しています。

研究者はウェブ上のインターフェースから試したい処方パラメータを指定でき、クラウドラボ上のロボットが指示通りに試料調製・試験を実行します。ロボットシステムはわずか1mlの液体と数mgの化合物で試験を行うことが可能で、従来比99%もの試料削減を実現しています。

例えば従来は1回の処方検討に1000ml規模の液剤と数gの原料が必要でしたが、Persist AIでは微量サンプルで代替でき、材料コストと貴重な新規化合物の消費を劇的に減らすことが可能です。また並行実行できる実験数も桁違いに拡大し、従来は月10〜15処方程度しか試せなかったところを、Persist AIでは月に数百〜数千の処方実験が行えます。

実際、ある長期徐放性注射剤の処方最適化プロジェクトでは、従来他社にて6か月を要した作業をPersist AIが約2か月(実験700件)で達成しました。

このように高スループット化と試行回数の大幅増加によって製剤開発サイクルを短縮しつつ、蓄積された膨大な実験データを基にAIがレシピと特性を予測することで、試行錯誤をさらに効率化しているのです。

(引用:Persist AI ホームページ

加えてPersist AIのクラウドラボは遠隔アクセスに対応しており、製薬企業の研究者は自社からロボット実験をオンデマンドで操作・閲覧することが可能です。専用の高度な設備投資をしなくても利用できるため、大手企業のみならず人的・資金的リソースの限られたスタートアップやアカデミアにも門戸が開かれています。

クラウドラボの利用により、Persist AIは「労力90%削減・コスト66%削減・開発期間50%短縮」といった成果が得られるとしています。なお、実験から得られた知的財産(IP)は全てクライアントに帰属し、追加料金なしに商業利用権まで確保できる契約体系を採用している点も特徴です。

以上のようにPersist AIのクラウドラボは、製剤開発のボトルネックを解消しうる革新的なプラットフォームとして注目されています。

② 製剤開発から製造までの包括支援

(引用:Persist AI ホームページ)

Persist AIは、単なるプラットフォーム提供にとどまらず、社内の製剤専門チームによるエンドツーエンドの開発支援も行っています。クライアントに代わって処方戦略の立案から、AI搭載ロボットラボによる実験・解析・最適化までを一貫して実施し、目標とする製品品質プロファイル(QTPP)に到達するまで伴走します。

また、前臨床段階に必要な動物実験や薬事ドキュメント作成についても、外部CROやGLP試験機関と連携しサポート。製剤開発の知見や体制が整っていないスタートアップやアカデミアにとって、ワンストップで開発を進められる点が強みです。

さらに製造段階では、開発時のデータをもとにスムーズなスケールアップを実現しています。特に注射剤では、マイクロ流体デバイスを活用し、少量スケールでの検証結果を工場レベルに展開することが可能です。現在は、cGMP対応の自動製造ラインを地元サクラメントに整備中で、Nivagen Pharmaとの連携により臨床・商用生産も見据えています。

このような包括支援により、Persist AIは製剤CRO/CDMO的な立場からも価値を提供しています。すでに世界有数の製薬企業やバイオスタートアップが活用しており、「開発期間・コストの劇的削減により、次世代注射剤への投資が現実的になった」といった高い評価を受けています。技術力と実績を背景に、大手との協業も着実に進行中です。

資金調達:2025年にシリーズAラウンドにおいて約1,200万ドル(約16億円)を調達

(引用:Persist AI

Persist AIは近年着実に資金調達を重ね、事業拡大の基盤を築いています。2022年6月の創業後まもなくY Combinatorに採択され、まず2024年8月にシード資金として約400万ドル(約5億円)を調達しました。詳しくは、以下の投資家が参加しています。

  • リード投資家:2048 Ventures(米国VC)
  • そのほかの参加投資家:
    • Innospark Ventures
    • Fellows Fund
    • Pioneer Fund
    • Y Combinator
    • Jovono

さらに、2025年5月19日にはシリーズAラウンドを実施し、約1,200万ドル(約16億円)の資金を獲得しました。こちらには、以下のような著名な投資家が名を連ねています。

  • リード投資家:Spero Ventures(米国VC)
  • 参加投資家:
    • MBX Capital
    • Shimadzu Future Innovation Fund(島津製作所系CVC)
    • Eli Lilly & Co.(米大手製薬企業)
    • SignalFire
    • Good AI Capital

これらを踏まえると、累計調達額は推定で約1,600万ドル(約22億円)規模に上ると考えられます(正式な総額は非公開)。

調達した資金はPersist AIのプラットフォーム強化と事業拡大に充てられています。具体的にはロボット研究設備の増強や、AIの予測精度向上に必要な大規模データセット構築、対応可能な製剤タイプのさらなる拡充などに投資されている状況です。

今後も資金調達をテコにチーム人材の拡充(オートメーション技術者やプロセス開発、機械学習エンジニアの採用)や、新たな製剤分野への対応強化を図り、事業成長を加速させる計画です。

市場規模:製薬分野におけるAI活用市場は、2030年には85億ドルに成長する見通し

(引用:Straits Research「Artificial Intelligence for Drug Discovery and Development Market」

製薬業界でも、AIやロボティクスの導入が急速に広がっています。Persist AIのように、開発プロセスの効率化に挑むスタートアップは、まさに今、世界的に注目される存在です。

実際、製薬分野におけるAI活用市場は2021年時点で約7.1億ドルでしたが、2030年には85億ドル超に成長すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は31.8%。驚異的なスピードで市場が拡大していることがわかります。

Persist AIが主戦場とする製剤化や製造(CMC)領域のアウトソーシング市場も同様に拡大中です。2024年にはその規模が約103億ドルに達するとされ、今後も成長が続く見込みです。

こうした潮流を背景に、製剤開発にもAIや自動化の波が押し寄せています。従来は職人技に頼っていた領域も、今ではデジタル技術によって精度とスピードを両立できる時代に。開発コストの削減はもちろん、患者への薬剤提供スピードの向上にも貢献しています。

当然ながら、この分野には競合も参入しています。たとえば、スイスのChemspeed社は自動化実験装置を、米StrateosやEmerald Cloud Labは遠隔操作型のロボットラボを展開。米国のIntrepid Labsなど新興プレイヤーも台頭してきています。

それでもPersist AIは、AI予測×専用ロボット×クラウド型ラボという独自の組み合わせで差別化。複数の先端トレンドを融合したそのビジネスモデルは、他社と一線を画します。事実、島津製作所系CVCやイーライリリーが出資を決めたことからも、その技術力と市場性への期待がうかがえます。

今後は、より高精度な予測モデルと自動化技術の進化を通じて、「製剤開発の新スタンダード」となるポテンシャルを秘めています。

会社概要

  • 会社名:Persist AI Formulation Corp
  • 所在地:890 Embarcadero Dr, West Sacramento, California 95605, USA
  • 設立:2022年6月
  • 代表者:Karthik Raman(カーシク・ラマン)
  • 公式HP:[Persist AI公式サイト](https://www.persist-ai.com/)

まとめ

Persist AIは、アナログだった新薬の製剤開発にAIとロボティクスによる変革をもたらしています。最適な処方の予測と自動試験により、開発期間の短縮とコスト削減を実現。これは業務効率化だけでなく、革新的な製剤技術の早期実用化を後押しし、患者への貢献にもつながります。

もちろん、製薬業界ならではの規制対応も欠かせませんが、Persist AIのような先進企業がこの分野に新たな選択肢を提示しつつあるのは確かです。創業からわずか数年で大型資金を集めた実力派として、今後の展開にも大きな期待が寄せられています。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

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