
建築や不動産の分野では、デザインの初期段階で関係者間のイメージ共有が難しく、専門家と非専門家の間にコミュニケーションギャップが生じやすいという課題があります。
例えば、建築家が提案する空間イメージをクライアントが具体的に想像できず、認識のずれから手戻りが発生するといった問題です。また、不動産業界でも、空室のままの物件では入居後の生活イメージが湧きにくく、その魅力を伝えきれないケースが少なくありません。
こうした社会課題に対し、株式会社SAMURAI ARCHITECTS(以下、SAMURAI ARCHITECTS)は建築設計と最新AI技術を融合させたサービス開発を通じてアプローチしています。AIによる画像生成やデータ解析を活用し、建築デザインプロセスの効率化や不動産の価値向上を目指すスタートアップです。
本記事では、SAMURAI ARCHITECTSの事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
事業内容①:建築AIパース生成サービス「Rendery」

建築特化型の画像生成AIサービス「Rendery(レンダリー)」は、建築・空間デザインのアイデアを即座に高品質なビジュアルに変換できるクラウドサービスです。
建築図面や完成イメージのレンダリングには通常専門スキルと時間を要しますが、Renderyではテキストによる要望やラフスケッチ、参考画像などを入力するだけでAIがリアルなパース画像を自動生成します。これにより、プロジェクト初期段階でデザイン案を素早く可視化でき、デザイナーと施主・営業担当者間のコミュニケーションギャップを埋めることが可能です。
実際にリアルタイムで空間をビジュアライズすることで、従来難しかった「提案者と顧客」や「デザイナーと非デザイナー」間の認識合わせをスムーズにし、手戻りの削減につなげています。またAIによる自動レンダリングは人手によるパース作成に比べ大幅なコスト削減と時短効果があり、誰もが手軽に空間デザインを試行錯誤できる“空間デザインの民主化”を実現する独自性が特徴です。
高精細なビジュアル生成を通じて建築・不動産業界のDXを推進するサービスとして、Airbnbとの提携による宿泊施設向け活用など展開も進んでいます。
事業内容②:AIホームステージングサービス「knock knock AI」

knock knock AI(ノックノックAI)は、不動産業界向けのAIホームステージングサービスです。空っぽの室内写真をAIが自動解析し、約3分で家具やインテリアをバーチャルに配置した画像を生成します。ユーザーは物件の写真をアップロードし、部屋の用途(リビング、寝室など)や好みのスタイル(北欧風、モダン等)を選ぶだけで、CG作成の専門知識がなくてもリアルな家具配置イメージを得ることが可能です。
これにより、内覧者は空室では想像しづらい「そこでの生活」を視覚的に体感でき、不動産仲介における説得力が飛躍的に向上します。
実際、米国の調査では何もない物件にバーチャルステージングした場合、成約までの期間が約87%短縮されたとの報告もあり、空室物件の販促に大きな効果が期待されています。
Knock knock AIはこれら課題を解決し、不動産仲介業者にとって物件成約率アップに寄与するソリューションとなっています。

独自開発の生成AIによる家具モデル配置に加え、2025年には実在する市販家具を配置できる新機能「knock knock AI+」や、部屋の3Dスキャンデータからウォークスルー動画まで生成する「knock knock 3D」もリリースされ、より現実的で訴求力の高い内装提案が可能となりました。
これらのサービスは月額課金モデルで提供され、従来の実物ステージングに比べ低コスト・短時間で導入できる使いやすさも評価されています。
事業内容③:空間ビジュアライゼーションサービス「VISIOAL」

VISIOAL(ビジョアル)は、建築家と最新AI技術の協業によって企画段階の不動産プロジェクトにフォトリアルな空間ビジュアルを提供する新サービスです。
ホテルや飲食店、オフィスビルなど商業施設の開発初期において、「コンセプトは固まったが空間イメージを具体化できない」という課題に対し、プロの建築家チームが企画意図を汲み取ったデザイン案を立案し、それを画像生成AIで高精細なビジュアルに仕上げることで解決を図ります。
従来は詳細な図面がなければパース作成が難しかった場面でも、VISIOALならコンセプトシートやムードボード、敷地の写真といった資料から直接リアルな完成イメージを描き出せます。建築家の「空間を創造する力」を企画段階で活用することで、ブランドの本質や開発コンセプトが反映された独自性の高い空間デザインを提案できる点が強みです。
さらにAIによるレンダリング技術で植物の配置や素材の質感まで写真のように表現できるため、短期間で説得力抜群のビジュアル資料を作成できます。VISIOALは提案書だけでは伝わりにくい空間価値を可視化し、プロジェクト関係者の意思決定を支援するサービスとして、不動産ディベロッパーや設計事務所から注目されている状況です。対応可能な施設タイプも多岐にわたり、商業店舗やホテル、新築住宅から都市開発プロジェクトまで幅広く利用されています。
資金調達:自己資金と企業連携で築く成長戦略

SAMURAI ARCHITECTSは、2022年の創業以来、現在までに大規模な外部資金調達の公表事例は確認されていません。しかし、同社は自己資金や事業収益に加え、アクセラレーションプログラムや企業連携を活用することで、堅実な成長を続けています。
特筆すべきは、2024年に三菱商事株式会社が主催するアクセラレータープログラムの最終選考に選出された実績です。これにより、大企業との協業や事業共創のチャンスが広がり、資金調達以上の成長機会を確保しました。
さらに2025年1月には、グローバル宿泊プラットフォームであるAirbnb日本法人の「Airbnb Partners」にスタートアップパートナーとして参画。空き家の有効活用や宿泊事業におけるAI活用の分野での協業が進められており、事業開発力が高く評価されています。
こうした取り組みは、資金面での大規模調達に依存せず、大手企業との連携を通じた事業加速という、他スタートアップとは異なるアプローチを示しています。現在も多方面の企業との協業を視野に入れつつ、技術の高度化や事業拡大を進めています。
市場規模:2033年に日本のBIM市場規模は26億ドル(約3,500億円)規模に成長する見通し

建築業界のDXは世界的な潮流となっており、その中核技術の一つであるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の市場は今後も高い成長が見込まれます。
グローバルではBIM市場規模が2024年に約98億ドルに達し、2033年には約2,99億ドルにまで拡大する見通しです。年率13%超の成長率で拡大するこの市場には、建築設計や施工プロセスの効率化ニーズの高まりが背景にあります。
また、日本国内においてもBIM導入が官民で推進されつつあり、市場規模は2024年時点で約683.7百万ドル(約90億円)から2033年には26億ドル(約3,500億円)規模に急成長する見通しです。これは年平均14.4%という高い成長率で、国内建設業界におけるDX化の潜在需要を示しています。
さらに、建築設計支援や建設テック全般に目を向けると、富士キメラ総研の調査によれば日本の建設・社会インフラ分野のDX市場は2022年時点で約499億円規模に達しており、2030年には約2,078億円に拡大する予測が出ています。同様に不動産分野のDX市場も2022年に220億円から2030年には970億円へと4.4倍に成長する見込みです。
こうした市場環境の下、建築設計のデジタル化支援サービスやAI活用ソリューションへの需要は今後ますます高まるでしょう。建築DX関連市場は国内外で拡大を続けており、SAMURAI ARCHITECTSが属する建築×AI領域もその成長トレンドの恩恵を受けることが期待されます。
会社概要
- 会社名:株式会社SAMURAI ARCHITECTS(SAMURAI ARCHITECTS Co., Ltd.)
- 所在地:〒107-0062 東京都港区南青山3丁目4番7号 第7SYビル201
- 設立:2022年5月11日
- 代表者:代表取締役 CEO 加藤 利基
- 事業内容:建築設計分野におけるAIソリューション開発・提供(自社サービス「Rendery」「knock knock AI」等の運営、AI受託開発・コンサルティング)
- 公式HP:https://www.samuraiarchitects.com/
まとめ
SAMURAI ARCHITECTSは、「建築×テクノロジー」で業界のDXを推進する注目スタートアップです。AI画像生成を活用し、建築デザインの課題を解決するRendery、空室物件を魅力的に見せるknock knock AI、企画段階から提案力を高めるVISIOALなど、実用性の高いサービスを展開しています。
外部からの大規模な資金調達は実施していないものの、企業との連携や支援プログラムの活用により堅実に事業を拡大しています。
今後はAI技術の進化と海外展開を視野に、さらなる成長が見込まれるでしょう。
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