
電力の自由化や脱炭素化の加速により、エネルギー取引市場は大きな変化を迎えています。企業や自治体にとって、コスト効率の高いエネルギー調達や環境価値の確保が求められる時代です。しかし、これらの取引は未だに情報の非対称性や市場の非効率性という課題を抱えています。
enechain株式会社(以下enechain)は、そんなエネルギー業界の課題をテクノロジーの力で解決するスタートアップです。オンライン取引プラットフォームを軸に、取引の透明性と公平性を実現し、持続可能な社会の実現を目指しています。
本記事では、enechain株式会社の事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
【事業内容①:eSquare 〜 日本最大級の電力卸取引プラットフォーム】

概要と課題解決
「eSquare」はenechainが提供するオンライン電力取引マーケットプレイスです。発電事業者や小売電気事業者などが、売買の条件を明示して電力の取引を行える場を提供します。リアルタイムの価格可視化と透明性の高い情報開示が特徴です。
従来の電力取引は非公開かつ仲介業者に依存する形が多く、流動性が低く透明性にも課題がありました。「eSquare」はそれらの課題を克服し、公正で開かれた市場を実現しています。
独自性・差別化
- リアルタイム価格提示
- データドリブンな取引支援
- 国内最大級の累計取扱高(2兆円に迫る)
- 「eSquare Live」による取引の即時化
ターゲットと利用メリット
対象となるのは発電事業者、小売電気事業者、大口電力需要家などです。利用することでコスト競争力を高め、契約交渉の効率化が実現します。また、リスクヘッジや需給管理にも役立ちます。
【事業内容②:JCEX 〜 環境価値取引の新たなスタンダード】

概要と課題解決
「JCEX(Japan Climate Exchange)」は、J-クレジットや非化石証書、ボランタリークレジットなどの環境価値をオンラインで取引できるマーケットプレイスです。カーボンニュートラルの取り組みが急速に求められる中、環境価値取引は企業経営に欠かせない要素となっています。
従来、これらの取引は煩雑で情報が不透明な傾向がありました。「JCEX」はその障壁を取り除き、誰もが簡便かつ適正価格で取引できる環境を構築します。
独自性・差別化
- 幅広い環境価値商品の網羅
- 市場価格の可視化
- 企業間の直接取引を可能にする仕組み
- 海外クレジットとの連携も視野に入れた設計
ターゲットと利用メリット
CO2排出量削減に取り組む大手企業、自治体、環境経営に関心のある中小企業などが主なターゲットです。調達の手間を削減し、クレジットの価格最適化に貢献します。
【資金調達:シリーズBラウンドで60億円を調達】

2024年4月、enechainはシリーズBラウンドで第三者割当増資および大手銀行4行からの長期借入により、総額60億円の資金調達を実施しました。
出資元・支援企業
- DCMベンチャーズ
- Minerva Growth Partners
- Soros Capital Management
- JERA、関西電力K4 Ventures、中国電力、中部電力ミライズ、北海道電力、大阪ガス、東京ガス、住友商事、三菱商事
- SMBCベンチャーキャピタル、みずほキャピタル、三井住友信託銀行、三菱UFJキャピタル
活用目的
資金は以下に活用される予定です:
- eSquare・JCEXの機能拡張
- AI/LLM技術の導入によるUX強化
- エンジニア/ビジネス人材の採用
- プロダクト認知向上に向けたマーケティング
※画像出典:PR TIMES
【市場規模:エネルギー×環境価値取引市場の可能性】
国内市場
日本の電力卸取引市場は2023年時点で約13兆円規模、再エネ電力の導入増加によりさらなる成長が見込まれます。環境価値取引もJ-クレジット市場を中心に急拡大しています。
世界市場
世界のカーボンクレジット市場は2027年までに2,500億ドル(約36兆円)規模に成長すると予測されています(CAGR約30%)。
enechainは国内で先駆的な存在であり、今後は海外マーケットとの連携や輸出可能なソリューション提供を視野に入れています。
※出典:Statista、経産省資料、PR TIMES
【会社概要】
- 会社名:enechain株式会社
- 所在地:東京都港区南青山3-11-13 新青山東急ビル7F
- 設立年月日:2019年7月30日
- 代表者名:野澤 遼
- 公式HP URL:https://enechain.co.jp/
【まとめ】
enechain株式会社は、電力や環境価値といったエネルギー関連市場の透明性と流動性を高めることで、日本の経済と脱炭素化に貢献するスタートアップです。eSquareおよびJCEXといったプロダクトを通じ、テクノロジーでエネルギーのあり方を再定義しています。
今後、AIや国際取引にも対応する高度な仕組みを導入しながら、日本発のエネルギーマーケットインフラを構築していく姿勢に注目が集まります。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。enechain株式会社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。