
現代社会において、人やモノの移動(モビリティ)は大きな変革期を迎えています。都市の交通渋滞や物流の非効率、ドライバー不足といった課題に対し、テクノロジーを活用した新たな解決策が世界中で模索されています。
近年では、自動運転やドローン配送、さらには超音速旅客機の開発などの、「モビリティテック」と呼ばれる分野が近年急速に注目を集めており、2030年代までに関連市場が爆発的に拡大すると予測されています。こうしたモビリティ領域でのイノベーションは、移動手段をより安全に、便利に、そして持続可能にする可能性を秘めており、経営者や新規事業担当者、投資家にとっても見逃せないトレンドです。
本記事では、モビリティ分野で特に注目される以下の4社のスタートアップをご紹介します。それぞれユニークな技術やビジネスモデルで移動の課題に挑戦しており、自動運転AIからライドシェア、ドローン配送、超音速航空まで多彩な取り組みを展開しています。モビリティの未来を切り拓く革新的ソリューションについてわかりやすく解説しますので、ぜひご一読ください。
- Wayve(ウェイブ) – AIによる自動運転技術「AV2.0」を開発(イギリス)
- newmo株式会社(ニューモ) – タクシー×ライドシェアで地域の移動課題に挑戦(日本)
- Zipline(ジップライン) – ドローンで医療物資を届ける物流サービス(アメリカ)
- Boom Supersonic(ブーム・スーパーソニック) – 商用超音速旅客機の開発に挑む(アメリカ)
「Wayve」AIによる自動運転技術「AV2.0」を開発

Wayve(ウェイブ)は、ケンブリッジ大学の研究チーム発で2017年に創業したイギリスの自動運転スタートアップです。最大の特徴は、同社が開発する自律走行システム「AV2.0」にあります。これは生成AI技術を活用した最新の自動運転AIで、カメラなどのセンサー映像から車載AIが常に学習・判断を行うため、事前に高精度マップデータがなくても走行可能です。人間が経験から学んで未知の道でも運転できるように、AV2.0は多様な環境データをエンドツーエンドで学習し、新たな道路状況にも適応できるよう設計されています。その結果、初めて走る地域や未整備な道路であっても、自動運転車が安全に走行できるという革新的なアプローチを実現しました。
こうした技術力から、Wayveはグローバル企業や投資家から大きな注目を集めています。実際、2024年5月にはソフトバンク・グループを筆頭に、米MicrosoftやNVIDIAなどが出資するシリーズCラウンドで約10億5,000万ドル(約1,590億円)もの巨額資金調達に成功し、一気にユニコーン企業の仲間入りを果たしました。従来の自動運転開発が直面していた地図整備コストや対応範囲の限界を打ち破るWayveの技術は、今後世界各地の道路インフラを問わず自動運転を普及させる可能性を秘めており、モビリティ業界のゲームチェンジャーとして期待されています。
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「newmo株式会社」タクシー×ライドシェアで地域の移動課題に挑戦

newmo株式会社(ニューモ)は、日本発のライドシェア×タクシー事業スタートアップです。2024年1月に設立された新興企業ながら、地域の移動課題を解決する独自モデルへの期待から創業直後から投資が相次ぎ、設立からわずか10ヶ月足らずで累計約187億円もの資金調達に成功しました。この驚異的なスピード調達により得た資金をもとに、newmoは大阪にて老舗タクシー会社を次々と買収して事業基盤を急拡大しています。2024年7月までに大阪府内で646台のタクシー車両を保有するまでになり、これは同地域で5番目の規模となっています。わずか半年〜一年足らずで大手に匹敵する車両ネットワークを築いたその手腕から、「日本版Uber」とも称され業界内で大きな話題となりました。
newmoのユニークさは、既存のタクシー事業と最新のライドシェア技術を融合し、日本の地域交通に新風を吹き込んでいる点です。同社は「移動で地域をカラフルに」というミッションのもと、利用者視点に立ったサステナブルな地域交通の実現を掲げています。具体的には、スマホアプリによる手軽な車両手配や決済、時間帯・地域に応じた柔軟な配車サービスなどを展開し、高齢化や過疎化で公共交通が衰退する地域における“移動難民”問題の解決を目指しています。規制の厳しい日本のモビリティ市場において、タクシー業界とテクノロジーの橋渡し役となるnewmoの挑戦は、今後の国内MaaS(Mobility as a Service)の行方を占う上でも注目すべき動向です。
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「Zipline」ドローンで医療物資を届ける物流サービス

Zipline(ジップライン)は、ドローン(無人航空機)を活用した配送サービスで世界をリードする米国カリフォルニア州発のスタートアップです。2014年創業の同社は、遠隔地や医療インフラが未整備な地域での医療物資配送に特化したソリューションを提供しており、血液やワクチンなど緊急性の高い物資を迅速かつ安全に届けられるインフラを構築しています。
Ziplineの小型無人機「Zips」による配送ネットワークは、ルワンダやガーナといったアフリカ諸国での実用化を皮切りに、山間部の診療所や災害時の救援物資輸送などに活用されてきました。そのサービスの有用性から徐々に導入地域を拡大し、最近ではアメリカ本土や日本でも実証・展開が進められています。従来のトラック輸送では届きにくかった場所へ物資を届けることで、物流のラストマイル問題や医療格差の解消に貢献している点が社会的にも高く評価されています。
事業の成長に伴い、Ziplineは投資家からの信頼も厚くなっています。2023年にはシリーズFラウンドで3億3,000万ドル(約480億円)を調達し、企業評価額は42億ドルに達しました。創業から約10年でユニコーン企業となったこの実績は、ドローン物流の将来性が市場から認められた証と言えるでしょう。現在までに累計で5億ドル以上の資金を調達し、技術開発やサービス網の拡充を進めるZiplineは、モビリティの新たな形として「空飛ぶ配送ネットワーク」を現実のものにしています。今後も医療のみならず一般物資の配送や都市部でのオンデマンド配送など、応用領域を広げながら、物流業界におけるドローン活用の可能性を切り拓いていくでしょう。
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「Boom Supersonic」商用超音速旅客機の開発に挑む

Boom Supersonic(ブーム・スーパーソニック)は、次世代の超音速旅客機を開発する米国コロラド州発の航空スタートアップです。同社はマッハ1.7(音速の約1.7倍)で飛行可能な商用旅客機「Overture」の開発を進めており、単に速いだけでなく安全性と環境持続性の両立を目指した航空機づくりで注目されています。実際、Overtureは燃料に100%持続可能な航空燃料(SAF)の使用を想定しており、大幅な高速飛行による時間短縮と環境負荷軽減の両方を実現しようとしています。従来、商用超音速機としてはコンコルドが知られていましたが2003年に退役しており、その後継となるべき存在は現れていませんでした。Boom Supersonicは最新技術でこの壁を乗り越え、「より速く、安全で、環境に優しい超音速旅客機」で航空業界に再び革命を起こそうとしています。
プロジェクトは着実に前進しており、2025年1月には技術実証機「XB-1」が史上初の民間超音速飛行に成功して最高速度マッハ1.1を記録するなど、開発における重要なマイルストーンを達成しました。この成功は、Overtureの実用化に向けた技術検証が順調に進んでいることを示すものです。またBoom Supersonicは既にユナイテッド航空や日本航空など大手各社から合計130機の予約注文を獲得しており、需要面でも大きな後押しを得ています。創業から現在までの累計資金調達額も7億ドル(約980億円)を超えており、開発資金の確保や工場建設、体制強化も順調です。2029年までにOvertureの商業運航開始を目標に掲げ、すでに米国初となる超音速機専門の生産工場「Overture Superfactory」を完成させるなど、実現に向けた準備が着々と進んでいます。
もし商用超音速機が復活すれば、例えばパリ〜ニューヨーク間が約4時間、東京〜サンフランシスコ間も5時間程度になるなど飛行時間が劇的に短縮され、国際移動の在り方自体が大きく変わる可能性があります。夢物語に思えた超高速移動を現実にしようとするBoom Supersonicの挑戦は、今後の航空・モビリティ業界における最大の注目トピックの一つと言えるでしょう。
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まとめ
今回は、モビリティ領域で革新的な取り組みを行う4つのスタートアップ企業(Wayve、newmo、Zipline、Boom Supersonic)をご紹介しました。フィールドはそれぞれ自動車・物流・航空と異なっていますが、4社とも移動の効率化や利便性向上、課題解決に挑んでいる点で共通しています。これらのソリューションは、私たちの生活やビジネスの在り方を大きく変える潜在力を秘めており、モビリティ業界の未来を方向付けるものとなるでしょう。
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