最終更新日 25/12/25
海外スタートアップ

【Air Doctor社】海外旅行者を支えるグローバル医療プラットフォーム

アプリ開発システム開発・サービス医療
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(引用:公式HP

海外旅行中に突然の病気やケガに見舞われた場合、言葉の壁や現地の医療制度の違いから適切な医療機関を探すのは容易ではありません。加えて、旅行先で高額な医療費を請求されたり、保険金の請求手続きに手間取ったりする不安も伴います。
こうした課題を解決するべく登場したのがイスラエル発のスタートアップAir Doctor社です。
同社は海外旅行者向けに、現地の信頼できる医師を迅速に紹介するオンラインプラットフォームを提供し、旅行者が安心して適切な医療サービスを受けられる環境を整えています。特に新型コロナウイルスのパンデミック後は、安全な旅を支える医療ソリューションへの需要が高まっており、多くの国で旅行保険の加入が事実上必須になる動きも出ています。
本記事では、Air Doctor社の事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。

事業内容:海外旅行者向け診療予約プラットフォーム「Air Doctor」

(引用:公式HP

Air Doctor社は、海外旅行者と現地の医師をマッチングする医療プラットフォームを提供しています。
同社のスマートフォンアプリとウェブサービスを通じて、旅行者は現在地付近で自分の症状や希望に合った医師を簡単に検索・予約することができます。一般医はもちろん、歯科医や皮膚科医、整形外科医など 20,000人以上の専門医ネットワークから適切な医師を見つけることが可能です。

特徴

(引用:公式HP)
  • 詳細な医師のプロフィール
    医師のプロフィールには経歴や対応可能な言語、他の患者からのレビューも掲載されており、利用者は専門性や言語対応などの条件でフィルタリングして医師を選べます。
  • シンプルな予約方法
    Air Doctorの予約方法は非常にシンプルです。アプリ上で症状や診療科、対応言語を選択すると、条件に合う医師が一覧表示され、空き時間を確認して数タップで予約が完了します。
  • 多様な診療形態
    現地クリニックでの対面診療、自宅・宿泊先への往診、オンライン診療
    の3つの診療形態から選択できる柔軟さも特徴です。例えば旅行先が都市部から離れていても、オンライン診療で現地の医師に相談し処方箋を発行してもらうことができます。オンライン診療時には通訳サービスも提供されており、必要に応じて第三者がビデオ通話に参加して日本語と英語などのリアルタイム翻訳を行います。

このようにAir Doctor社のサービスは、土地勘や言語に不安を抱える旅行者でも直感的に利用でき、旅先ですぐに適切な医療にアクセスできる仕組みを実現しています。

保険会社との連携

Air Doctor社のプラットフォームが独自性を発揮している点の一つが、旅行保険会社との深い連携です。
同社は世界各国の保険会社と提携し、保険加入者がAir Doctorアプリ経由で診療を受けた場合、現地での立替支払が不要となる仕組みを提供しています。旅行者は病院窓口で高額な医療費を支払ったり、後日保険会社に請求手続きをしたりする手間がありません。保険ポリシー情報とサービスを連動させることで、アプリ上に自分の加入保険で利用可能な診療内容のみが表示されるため、適用範囲が一目で分かるよう工夫されています。
また保険会社側にも大きなメリットがあります。旅行者は適切な医師による診療を受けられるため、不必要に設備の整った大病院を受診して高額な請求が発生するケースが減ります。その結果、保険会社が負担する医療費を約50%削減できた例も報告されており、保険金支払コストの大幅な圧縮に繋がっています。

医師へのメリット

Air Doctorでは、既存の医療施設や開業医が特別な設備投資を行う必要がなく、オンライン登録のみでプラットフォームに参加可能です。診療後の支払いも保険会社やAir Doctor経由で迅速に処理されます。利用実績が蓄積されることで、診療データや利用傾向をもとにしたサービス改善が進む点も特徴です。どの国・地域でどの診療科の需要が高いかを分析し、医師ネットワークの最適配置や保険会社への提案に活用しています。こうしたデータドリブンな運営は、単なるマッチングサービスにとどまらず、旅行医療インフラとしての信頼性向上につながっています。


このようにAir Doctor社は「旅行者・保険会社・医師」の三者全てにメリットをもたらすエコシステムを構築しており、旅行者は質の高い医療を手間なく受けられ、保険会社はコストを削減でき、医師は迅速に報酬を得ることができるというWin-Win-Winの関係を生み出している点がAir Doctor社の大きな強みです。

資金調達:シリーズBラウンドで大型調達を実施

(引用:公式HP)

Air Doctor社はサービス開始以来、着実に資金調達を重ねて事業を拡大してきました。
直近では2024年10月にシリーズBラウンドで2,000万ドル(約30億円)の大型調達を実施しました。
このシリーズBはイスラエルのヘルスケア特化ファンドaMoonが主導し、日本の東京海上ホールディングスや韓国のSamsung Venturesといった戦略的投資家も参加しています。既存株主であるLightspeedやVintage、Munich Re Venturesなども引き続き出資し、同社への信頼を示しました。

シリーズB調達後の累計資金調達額は約5,000万ドルに達し、Air Doctor社はこの資金を活用してアジアを含むさらなるグローバル展開とサービス開発を加速する計画です。実際、シリーズB資金によりアジア市場への参入準備が整い、2024年時点で従業員数は創業時の約4倍となる75名に増加しています。経営陣にはIntel出身のジェニーCEOをはじめ、複数の共同創業者が名を連ねており、その多様なバックグラウンドも事業推進の原動力となっています。
グローバルの投資家から得た資金と知見を武器に、Air Doctor社は「海外で医師が必要になったらAir Doctor」という新たな常識を世界中に根付かせることを目指しています。

市場規模:拡大する旅行保険市場

(引用:Precedence Research

海外旅行者向け医療サービスを語る上で、まず注目すべきは世界の旅行保険市場の拡大です。
Precedence Researchによると、世界の旅行保険市場規模は2025年に約271億ドルと推計されており、2034年には約987億ドルに達する見通しです。これは年平均成長率(CAGR)15%超という非常に高い成長率であり、保険市場全体の中でも際立った成長分野といえます。
この背景には、コロナ禍を経て旅行者のリスク意識が大きく変化したことがあります。渡航先での医療費高騰、医療制度の違い、言語の壁といった不安要素が顕在化し、「旅行保険に加入すること」が任意ではなく“前提条件”になりつつあります。特に欧州やアジア諸国では、入国条件として保険加入を求めるケースも増えており、今後も安定的な市場拡大が見込まれています。

保険と連動して急拡大する医療支援サービス市場

さらに注目すべきは、旅行保険と密接に結びつく旅行医療支援市場です。
同市場は2021年時点で約176億ドルでしたが、2030年には約589億ドル規模まで成長する見通しで、CAGRは約14〜15%とされています。

この市場では、単なる「保険金支払い」から、「実際に医療へつなぐ体験価値」への転換が進んでいます。旅行者は「後で保険請求できるか」よりも、「今すぐ信頼できる医師に診てもらえるか」を重視するようになっており、保険会社側も医療アクセスを含めた付加価値提供を競う状況です。

会社概要

  • 会社名:Air Doctor Ltd.(Air Doctor社)
  • 所在地:イスラエル・エルサレム(本社)
  • 設立:2016年
  • 代表者:Jenny Cohen Derfler
  • 公式HPhttps://www.air-dr.com

まとめ

Air Doctor社は、増加する海外旅行者の「もしも」に備えた革新的サービスで国際的な存在感を高めています。言語や文化の壁をテクノロジーで乗り越え、誰もが世界中どこにいても安心して医療支援を受けられる未来を目指す同社の挑戦は、多くの旅行者や保険業界から支持を集めています。今後、日本語対応や国内企業との提携が進めば、日本人旅行者にとっても心強いサービスとなるでしょう。グローバル展開を加速するAir Doctor社の今後の動向から目が離せません。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。Air Doctor社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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