
水素はカーボンニュートラル社会の鍵を握るエネルギー源ですが、現在の製造工程は化石燃料に依存しており、製油所や化学プラントで汚染物質やCO2を排出しています。また、水素製造法の一つである膜分離は工程がシンプルですが、従来の膜は高温に弱く酸性ガスで劣化しやすいなど耐久性に課題がありました。
この課題に対し、DiviGasは独自の高耐久ポリマー膜を開発し、水素の分離・精製プロセスを効率化することでクリーンな水素製造を実現しようとしています。本記事では、DiviGasの事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
事業内容:高性能水素分離膜によるクリーン水素回収

DiviGasが開発した膜は、高耐久性の中空糸状ポリマー膜です。その素材は極めて微細な多孔構造を持ち、従来膜と比べ選択性や透過性の両面で同等以上の性能を示します。最大150℃の高温環境にも耐え、硫黄や塩素を含む腐食性ガスに晒されても劣化しにくいため、未処理の排ガス中でも安定した分離性能を発揮できます。その結果、原料ガスの種類を問わず99.95%という高純度で水素を分離・回収することが可能となりました。
DiviGasの膜ソリューションは、とりわけ製油所や化学工場など既存プラントで威力を発揮します。従来は燃焼処分されていた副生水素を高純度で回収できるため、企業に新たな収益源をもたらします。
実際、世界の化学・石油精製プロセスで生成される水素の約15%は燃焼によって大気中に失われているとされ、DiviGasの膜を導入すればこの未利用水素を製品として再活用可能です。その結果、平均的な製油所では年間300万〜600万ドルのコスト削減と2〜3倍の投資対効果が見込めると報告されています。さらに、本技術は既存設備への後付けが可能で大規模な改造を必要としないため、導入ハードルが低い点も利点です。そして、この技術はメンテナンスが少なく、長寿命という特性を持っているため運転コストを大幅に削減可能です。これらの利点が顧客の長期的な信頼を得る理由となっています。
このようにDiviGasの技術は水素の有効活用と同時にCO2排出削減にもつながるため、産業分野での脱炭素化ソリューションとして今後の展開が期待されています。
資金調達:シードラウンドで約4億円を調達

DiviGasは2021年11月に実施したシードラウンドで約360万ドルを調達しました。
主要調達先は英国のEnergy Revolution VenturesとドイツのフィルターメーカーMann+Hummel社で、米SOSV(HAX)、米著名投資家Albert Wenger氏、Amasia、Volta Energy Technologies、Climate Capitalなど複数の投資家が参加しています。
その後も追加資金の調達を継続しており、累計調達額は2023年までに約750万ドルに達しました。出資元にはマレーシア国営石油会社のCVCであるPETRONAS Venturesや、気候テック系アクセラレーターThird Derivativeなども名を連ねており、エネルギー業界からの注目度も高いことが伺えます。
調達した資金はオーストラリア・メルボルンでのパイロット生産設備の構築などに充てられ、現在は週1基ペースで中空糸膜モジュールを製造できる体制を整えつつあります。なお、2022年にはグローバル本社をシンガポールからメルボルンに移転し、現地の先端製造エコシステムを活用して技術開発を加速させています。
DiviGasの創業チームも注目に値します。CEOのAndre Lorenceau氏は前職のスタートアップをシリーズBまで成長させ、累計1,500万ドル以上の資金調達に成功した実績を持つ連続起業家で、Forbes誌の「30 Under 30」にも選出されています。CTOのAli Naderi博士はシンガポール国立大学で化学工学の博士号を取得した膜技術の専門家であり、ガス分離膜に関する論文や特許も多数有しています。こうした経歴を持つ両名のリーダーシップの下、同社は技術開発と事業拡大を加速させています。
市場規模:水素市場の拡大と将来性

水素市場はクリーンエネルギーへの移行を背景に急速な拡大を見せています。Precedence Researchによると、2024年のグローバル水素市場規模は約 2,621億ドル に達しており、2034年には約 5,565億ドル へとほぼ倍増する見込みです。これは2025〜2034年の間で 年平均成長率が約7.8% になるという予測に基づいています
このような成長は、化石燃料に依存しない製造プロセスや輸送・産業用途での需要増加が後押ししており、水素の役割がエネルギーシステムに組み込まれていく過程で市場が拡大していると解釈できます。
またIEAの予測によると、2050年までに世界の水素需要は現在の約4倍に拡大し、年間約4億3,000万トンに達する見通しです。今後の需要増のほとんどは再生可能エネルギー由来またはCCS併用による低炭素型の「クリーン水素」(製造過程でのCO2排出を抑えたブルー水素やグリーン水素)で占められるとされ、輸送・発電・産業分野の脱炭素化において水素が果たす役割は一段と大きくなっていくでしょう。
こうした市場環境の中、DiviGasの革新的な膜技術は、既存の水素製造プロセスをアップグレードし、これまで廃棄されていた水素を有効活用することでクリーンエネルギー化を支えるソリューションとして大きな可能性を秘めています。
会社概要
・会社名: 株式会社DiviGas
・所在地:
シンガポール:Kampung Bugis Kallang Riverside 338986, Singapore
オーストラリア・メルボルン:660 Lorimer St, Port Melbourne Victoria 3207, Australia
・設立: 2020年
・代表者: Andre Lorenceau(アンドレ・ロレンソー)
・公式サイト: https://www.divigas.com
まとめ
DiviGasは革新的な膜技術によって産業部門の水素利用効率を高め、脱炭素社会に貢献しようとしています。その実用化は始まったばかりですが、既に業界から大きな期待が寄せられており、今後の事業展開次第では水素エコノミーの発展に不可欠な存在となる可能性があります。実際、製油所などからは試験導入を求める声が殺到しているといい、同社は生産能力の拡大に向けた準備を進めています。2024年時点で世界各地の大手企業と13件のパイロットプロジェクトを進行中で、21基の膜モジュールを出荷済み、2025年には100万ドルの売上を見込んでいます。クリーンな水素社会の実現に向けて、DiviGasの今後の挑戦と成長に注目していきたいと思います。
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