
近年、ファッション業界では大量生産・大量廃棄による繊維廃棄物問題が深刻化しており、繊維資源の浪費と環境負荷の増大が懸念されています。
こうした課題を解決するため、ベルギー発のスタートアップ「Resortecs(リソーテクス)社」は、熱で溶ける特殊な糸と衣類自動解体システムによって衣類リサイクル工程を容易にする技術を開発しました。このアプローチにより、従来困難だった衣服の解体と素材分別が効率化され、繊維廃棄物削減への貢献が期待されています。
本記事では、Resortecs社の事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
事業内容①:熱溶解性縫製糸「Smart Stitch™」

Resortecs社の中核技術の一つが、熱を加えると溶けてしまう特殊なミシン糸「Smart Stitch™」です。同社は複数の融点温度を持つ糸を開発しており、例えば150°C、170°C、200°Cといった温度で溶解する糸を衣類の種類に応じて使い分けることができます。
この糸で縫われた衣服は、一定以上の高温環境に入れると縫い目が自動的に消失し、布地や付属品を容易に分離できるようになります。
通常のポリエステル糸で縫製された衣服では、リサイクル前に手作業でファスナーやボタンを取り外し、縫い目を断ち切る必要がありました。しかしSmart Stitch™を用いることで、この手間のかかる解体作業が不要となり、衣服解体のスピードは手作業の約5倍に向上します。さらに、縫製糸だけを熱で溶かすため生地自体は傷まずに残り、元の布地の90%近くを良好な状態で回収することが可能です。
Smart Stitch™の有効性
①通常のミシンでSmart Stitch™を利用可能
既存の生産工程に大きな変更を加えずに導入することができます。衣服メーカーや縫製工場は通常のミシンでこの糸を使って縫製でき、出来上がった製品は通常の衣服と同じように洗濯やアイロン掛けにも耐えます。
つまり、消費者が着用中に糸が溶けてしまう心配はなく、製品寿命を全うした後になって初めて加熱処理で糸を溶かす設計になっています。
②「サステナブル=高コスト」の障壁を撤廃
糸の価格も一般的な縫製糸と大きな差がないため、サステナブル素材にありがちな高コスト障壁も低く抑えられています。この技術により、ブランド各社は製品設計段階から「リサイクルしやすさ」を織り込むことが可能となり、従来リサイクルが難しかった複合素材の衣服や作業着、スポーツウェアなどでも循環利用への道筋が開けます。
事業内容②:衣類自動分解システム「Smart Disassembly™」
Smart Stitch™で縫製された衣類は、Resortecs社が開発した「Smart Disassembly™」と呼ばれる専用の熱処理システムに投入することで、一括して自動分解できます。外見は大型の産業用オーブンのようなこの装置に衣服を入れ加熱すると、縫い目に使われた糸が所定の温度で溶けて縫製が解除されます。同時に機械的な揺動も加えることで、衣服に付いたジッパーやボタン、ゴム紐などリサイクルの障害となる付属品が自動的に分離されます。

人手を介さず完全自動で衣服の解体・素材分別が行われる点が画期的です。同社によれば、この熱分解システムを使うことで衣服解体の速度は従来の最大15倍に達し、回収できる繊維も従来の約2倍なるといいます。
Smart Stitch™とSmart Disassembly™を組み合わせたソリューションを展開

Smart Stitch™とSmart Disassembly™を組み合わせたソリューションにより、Resortecsはブランド・解体業者・リサイクル業者をシームレスにつなぐサービスを展開しています。
具体的には、衣料ブランドやユニフォーム提供企業に対しては熱溶解糸を提供し、使用済み製品の回収時にはResortecs側で解体処理を請け負います。ブランド各社は寿命を迎えた製品をResortecsに引き渡すだけで、素材の分離と選別が行われ、リサイクル可能な繊維が回収されます。回収後の繊維はResortecsと提携する世界中のリサイクル事業者へと渡り、新たな糸や布地への再生に活用されます。
ブランド側にとっては自社で解体インフラを構築する必要がなく、廃棄物処理の負担や責任を軽減できるメリットがあります。一方、リサイクル事業者にとっても、高品質に選別された繊維原料が安定的に供給されることで、前処理コストを大幅に削減し本来の再生プロセスに専念できる利点があります。
このようにResortecsは、衣類リサイクルのバリューチェーンにおける「抜け落ちていた部分」を埋める存在として、ファッション産業の循環化を支えるプラットフォームとなっています。
資金調達:大型資金調達により生産能力を拡大

2017年にベルギー・ヘントで創業したResortecs社は、その独創的な技術が評価され、近年相次いで大型の資金調達を実現しています。
2025年11月にはシリーズAラウンドで600万ユーロ(約8億円)を調達し、国際的な注目を集めました。
2025年11月の資金調達における投資家
- 日本のアウトドアメーカーゴールドウインのCVC「 Play Earth Fund」
- ベルギー政府系ファンド 「SFPIM」
- 欧州イノベーション会議(EIC)基金
- Fashion for Good
- makesense
- Trividendなどの既存株主、および複数のエンジェル投資家
調達資金の活用先
シリーズAの資金は、同社が初の連続式産業用解体ラインの開発を完了し、処理能力を10倍にスケールアップするために活用されます。具体的には、2027年までに年間3,000トンの衣類を処理可能な解体プラントをまず構築し、今後5年で欧州各地に合計5拠点の分散型解体ラインを展開する計画です。これにより、大量の使用済み衣服を各地域で効率良く循環利用できるインフラを整備し、真の意味でのサーキュラーエコノミー実現に近づける狙いがあります。
市場規模:繊維リサイクル市場の拡大と追い風

世界の繊維リサイクル市場は成長期に入りつつあります。2024年時点の市場規模は約48億5,000万ドルと推定され、2033年には約69億ドル規模に拡大すると予測されています。この予測に基づけば年平均成長率は4.2%程度ですが、持続可能なファッションへの関心の高まりから8%前後の高成長を見込む調査もあります。いずれにせよ各種レポートは、環境意識の向上や規制強化を背景に繊維リサイクル市場が今後大きく拡大するとの見通しで一致しています。
市場拡大を牽引する要因の一つは、各国・地域での政策動向です。特にEUでは廃繊維の資源循環化を促す制度整備が進んでいます。2025年以降、EU域内で衣類を販売する企業には使用済み繊維の回収・選別・再利用を義務付けるEPR(拡大生産者責任)規則が適用される予定であり、ファッションブランド各社は新たな対応を迫られています。しかし現状ではリサイクルインフラが不十分で、EU域内では年間1,260万トンもの繊維廃棄物が発生しているにもかかわらず、そのわずか1%程度しか衣料品として再利用されていないのが実情です。こうした規制とインフラのギャップを埋めるべく、Resortecsを含む欧州企業連合が発足するなど業界を挙げた取り組みも始まっています。Resortecs社の技術はまさにこのボトルネックを解消するソリューションであり、EUの循環型経済政策の追い風を受けて需要が高まることが期待されます。
会社概要
- 会社名:Resortecs(運営法人:Regeneration BV)
- 所在地:ベルギー・ブリュッセル
- 設立年月日:2017年
- 代表者名:Cédric Vanhoeck(セドリック・ヴァンホック) – Co-founder & CEO
- 公式HP URL:https://resortecs.com/
まとめ
衣類廃棄問題という大きな社会課題に対し、Resortecs社は「熱で溶ける糸」と「自動解体システム」というユニークな発想で真正面から挑んでいます。同社の技術は、従来はコストと手間の面で諦められていた衣服の再資源化を可能にし、ファッション業界の常識を塗り替えつつあります。実際に欧州を中心に規制強化や企業連携の動きが加速する中で、Resortecs社はそのソリューションを産業規模にスケールさせようとしています。今後さらに解体プラントのネットワークが拡大し、様々な国・地域のブランドがこの仕組みを採用していけば、繊維廃棄物の削減と新素材生産に伴う環境負荷低減に大きく貢献するでしょう。サーキュラーエコノミーへの移行が求められる時代において、同社のようなイノベーターの存在はますます重要性を増すと考えられます。読者の皆様も、使い終わった衣類の行方に目を向けてみてはいかがでしょうか。その裏側では、Resortecs社の技術のような革新が持続可能な未来を支えています。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。Resortecs社のように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

