
現代の都市生活や旅行において、私たちは常に「持ち物」という物理的な制約に縛られています。出張先での商談前、あるいは観光地でのチェックイン待ちの時間、重いスーツケースが移動の自由を奪い、生産性や体験の質を著しく低下させているのは周知の事実です。特に観光立国を目指す日本においては、コインロッカーの慢性的な不足や、巨大な荷物を抱えた旅行者が公共交通機関を圧迫する「オーバーツーリズム」が深刻な社会課題となっています。
こうした背景の中、2019年に米国サンフランシスコで産声を上げたスタートアップ「Bounce」は、既存の店舗網をデジタルでつなぐシェアリングエコノミーの手法により、この課題に真っ向から挑んでいます。同社は「日々の生活をより軽やかに」というミッションを掲げ、世界中の飲食店やホテルなどの空きスペースを荷物預かりの拠点へと変貌させました。
本記事では、株式会社Bounceの事業内容や資金調達動向について詳しく紹介します 。
事業内容:世界最大級のシェアリング型荷物預かりネットワーク
Bounceのコア事業は、地域の小売店やホテル、カフェなどの遊休スペースを活用した、オンデマンドの荷物預かりプラットフォームです 。同社は自社で倉庫やロッカーを所有するのではなく、地元のビジネスパートナーと手荷物を持つユーザーをマッチングさせるマーケットプレイスを運営しています 。2026年現在、同社のネットワークは北米、ヨーロッパ、アジア、オセアニアを含む世界100カ国、4,000以上の都市で35,000拠点以上にまで拡大しており、世界最大級の荷物預かりインフラを構築しています 。
ユーザー体験を革新するモバイルプラットフォーム
ユーザーは、専用のモバイルアプリ、またはウェブサイトを通じて、現在地付近の預かり場所をリアルタイムで検索し、予約から決済までを数タップで完了できます 。このサービスの最大の強みは、従来のコインロッカーにはない「物理的制約の打破」と「安心感の提供」にあります 。

まず、預けられる荷物のサイズに制限がありません 。スーツケースはもちろん、スキー板やサーフボード、自転車といった大型の物品まで対応可能です 。さらに、全ての予約には最大1万米ドルの補償が自動で付帯されており、預け入れ時には独自のセキュリティタグや改ざん防止IDシールが使用されるなど、高い信頼性を確保しています 。利用料金は1日単位の定額制であり、時間経過による追加料金の不安を解消している点も、多くの旅行者に支持される理由です 。
地域経済を活性化するパートナーシップモデル
Bounceのプラットフォームは、荷物を預けるユーザーだけでなく、預かりを担う「パートナー店舗」にとっても強力な収益化ツールとなっています 。パートナーとなる店舗は、わずか0.5平方メートル程度の空きスペースがあれば、初期費用や月額費用を一切かけずにサービスを導入できます 。
【パートナー側のメリット】
- 追加収益の創出
荷物1件ごとに報酬が発生し、月末に自動振込されます。 - 集客・広告効果
Bounceの検索マップに無料で掲載され、新規顧客の来店が促進されます。 - ついで利用の誘発
荷物を預けに来た客が店内で飲食や買い物をすることで、本業の売り上げ向上を見込めます。 - 運用の柔軟性
営業時間の管理や預かり可能戸数の設定はアプリ上で自由に変更可能です。
このように、Bounceは地域の小規模店に対して、DXを通じた新たな収益源を提供しています 。創設者のコーディ・キャンディー氏は、パンデミックの影響で多くの小売店が苦境に立たされた際、Bounceを通じて累計100万ドル以上の収益をパートナー店舗に還元したことを明かしており、地域経済のレジリエンスを高める役割も果たしています
資金調達:トップ投資家が支える成長
Bounceは、その資本効率の高さとスケール可能性により、世界中のトップクラスのベンチャーキャピタルや事業会社から注目を集めてきました 。創業以来、着実にラウンドを重ね、累計調達額は2025年時点で約3,400万ドルを超えています 。

資金調達の詳細とフェーズ別推移
最新の大きな動きとしては、2024年後半に実施されたシリーズBラウンドでの1,900万ドルの調達が挙げられます。このラウンドには、サンフランシスコのSapphire Sportを筆頭に、日本からはヤマトホールディングスやKDDIといった大手事業会社が参画しており、日本市場への期待値の高さが伺えます。
【資金調達状況】
- 2018年12月
金額:シード 120万ドル 調達先:エンジェル投資家 - 2021年12月
金額:シード拡張 200万ドル 調達先:CreatorVentures - 2022年4月
金額:シリーズA 1200万ドル 調達先:Andreessen Horowitz - 2024年12月
金額:シリーズB 1900万ドル 調達先:Sapphire Sport、ヤマトHD、KDDI
創業者のプロフィールとレジリエンス
Bounceの成長を支えているのは、創業者であるコーディ・キャンディー(Cody Candee)氏の強力なプロダクト志向と執着心です。キャンディー氏はウィスコンシン大学マディソン校を卒業後、会計ソフト大手のIntuitでプロダクトマネージャーを務め、中小企業の課題解決に従事してきました。

創業間もない2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、旅行需要が消滅したことでBounceの収益は95%以上減少しました。共同創業者が離れ、投資家から撤退を勧められるほどの窮地に立たされましたが、キャンディー氏は諦めませんでした 。彼はこの期間を「パートナー店舗への貢献」というミッションを再定義する機会と捉え、むしろ提携店舗のサポートに注力しました 。その後、2021年には収益を38倍に成長させるという驚異的なV字回復を実現し、今日のグローバル展開の礎を築きました。
今後の事業拡大戦略とM&A

調達した資金の多くは、日本を筆頭とするアジア市場の開拓と、テクノロジーへの投資に充てられています 。また、2026年2月にはヨーロッパの有力競合であった「Nannybag」の買収を発表しました 。この買収によりフランスのカルフールなどの大手リテールチェーンとの提携網を吸収し、ヨーロッパにおける圧倒的なシェアを確立しています 。これは、自社での有機的な成長に加え、戦略的な買収を組み合わせることで、荷物預かり市場のグローバル・リーダーシップを盤石にする戦略です 。
会社概要
- 会社名: Bounce Japan 合同会社(Bounce, Inc. 日本支社)
- 所在地: 東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア WeWork 39階
- 設立: 米国本社:2018年
- 代表者: コーディ・キャンディー(Cody Candee)
- 公式HP:https://ja.bounce.com/
まとめ
株式会社Bounceは、単なる「荷物預かり所」のネットワークを超え、物理的な移動の障壁を取り払うことで人々の行動を最適化する「都市のプラットフォーム」へと進化を遂げています。世界35,000拠点以上に広がる同社のサービスは、旅行者には自由な時間を、地域店舗には新たな収益を、そして都市には混雑の緩和という大きな価値をもたらしています。
インバウンド需要の本格的な回復とともに、日本の街角で「Bounce」のロゴを目にする機会はさらに増えていくはずです。重い荷物から解放された旅行者が、もっと自由に、もっと深く日本を体験できる未来を、Bounceはデジタルの力で着実に手繰り寄せています。この挑戦が、日本の観光立国としての質を高め、地域経済をさらに豊かにしていくことを期待せずにはいられません。
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