最終更新日 25/05/16
国内スタートアップ注目企業

Varinos株式会社が挑むゲノム医療の最前線:不妊治療の新たな可能性

ヘルスケア医療
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(引用:cloudpack

少子化や晩婚化により、不妊に悩むカップルは年々増加しています。これまで原因不明とされることも多かった不妊症に対し、Varinos株式会社ゲノム解析技術で挑む注目のスタートアップです。

2017年に創業し、世界で初めて子宮内フローラ検査(子宮内細菌叢検査)の実用化に成功した同社は、不妊治療やリプロダクティブヘルス(生殖健康)の分野で革新的なソリューションを提供しています。ゲノム(DNA)情報を活用した新たな臨床検査サービスによって、妊娠率向上など社会課題の解決に挑んでおり、その成果と将来性が高く評価されている状況です。

本記事では、Varinos株式会社(以下、Varinos)の事業内容や資金調達状況、今後の展望について詳しく紹介します。

事業内容:DNA解析を軸としたサービス

Varinosは高度なDNA解析技術を強みに、医療機関向けの臨床検査サービスを展開しています。

主力の「子宮内フローラ検査」をはじめ、体外受精(IVF)に関連する着床前ゲノム検査や、がん領域への応用となるリキッドバイオプシー(液体生検)など、ゲノム解析に基づく多角的な事業を手掛けています。

それぞれのサービスについて、概要や解決する課題、独自性、対象となる利用者層、導入メリットを順に紹介します。

子宮内フローラ検査:不妊治療に新発見をもたらす独自検査

(引用:Varinos株式会社

Varinosが世界で初めて臨床実用化した「子宮内フローラ検査」は、不妊治療における画期的なゲノム解析サービスです。

子宮内フローラとは子宮内に存在する細菌叢(さいきんそう)のことで、従来は子宮内は無菌と考えられていました。しかし近年の研究で、子宮内にも腸内のように多様な菌が存在し、そのバランス(善玉菌であるラクトバチルス属菌の割合)が妊娠率や着床率に大きく影響することがわかっています。

Varinosはこの知見に基づき、次世代シーケンサー(NGS)を用いた超微量細菌のDNA解析技術を開発。子宮内膜の検体から菌の種類と割合を調べることで、子宮が妊娠に適した環境かを判定します。結果に応じて必要な治療(例えば菌バランスを整えるサプリメント摂取など)を提案できるため、不妊の原因解明と対策立案に大きなメリットがあります。

事実、この検査は日本国内の不妊治療クリニック約250施設で導入が進んでおり、2022年には厚生労働省から先進医療 (先進医療B) にも認定され、保険診療との併用が可能となりました。これにより患者は経済的負担を抑えて受検でき、妊娠成功への新たなアプローチとして期待されています。

着床前ゲノム検査:胚の遺伝子異常を見極める先端医療

(引用:Varinos株式会社

体外受精におけるもう一つの鍵となるサービスが着床前ゲノム検査(PGT-A)です。これは胚移植前の受精卵(胚)から細胞を一部採取し、胚の染色体数や遺伝子を解析して異常の有無を調べる検査です。

胚の染色体異常は流産や着床失敗の大きな原因の一つであり、事前に正常な胚を選別できれば妊娠継続率の向上が期待できます。Varinosは不妊治療クリニック向けにこのPGT-Aサービスを提供し、医師と患者を支援しています。

例えば高齢妊娠を目指す方や流産を繰り返す方にとって、有効な胚選択の手段となっています。加えて、次世代POCゲノム検査(Products of Conception検査)と呼ばれるサービスも展開している状況です。これは流産や死産で得られた胎児組織の遺伝子を解析し、原因が胎児側の染色体異常かどうかを調べる検査です。従来は原因不明になりがちだった流産について、遺伝的要因の有無を明らかにできるため、再発防止策の検討や患者の心理的ケアにも役立ちます。

以上のように、Varinosの生殖医療領域のゲノム検査サービスは、「授かる前」から「万一授かれなかった後」までトータルにカバーしている点が特徴です。最先端の遺伝学的検査によって妊娠・出産のプロセスを科学的に支え、医療現場の意思決定を高度化しています。

リキッドバイオプシー:ゲノム解析で切り拓くがん診断の未来

近年注目のリキッドバイオプシー(液体生検)分野にも、VarinosはそのDNA解析技術を応用しつつあります。

リキッドバイオプシーとは、血液などの体液中に含まれるがん由来のDNA断片や細胞を分析して、非侵襲的にがんを検出・モニタリングする技術です。従来の組織生検(患部の組織採取)に比べ患者負担が少なく、早期発見や再発監視への応用が期待されています。

Varinosでは、これまで培った超微量DNA検出やゲノム解読ノウハウを活かし、婦人科がん領域などでの新しい検査開発に着手している状況です。例えば子宮頸がんの再発モニタリングを目的とした液体生検の研究に取り組んでおり、将来的には血液一滴で子宮頸がんの再発リスクを評価できるような検査を目指しています。また、子宮内フローラ技術の応用研究として、子宮内フローラと慢性子宮内膜炎・子宮内膜症・子宮頸がんとの関連性についてもエビデンス構築を進めています。

これらはまだ開発段階のプロダクトですが、実現すればがん診断・予防医療の分野で大きな価値を提供できるでしょう。Varinosのリキッドバイオプシー事業は、同社が生殖医療からさらに医療領域を広げ、より多くの患者の命と健康を守る挑戦と言えます。

資金調達:2022年8月、シリーズCにて約6億円を調達

(引用:PR TIMES)

Varinos株式会社は、これまでに複数回の資金調達を実施しています。

  • シリーズB:2020年9月、約3億円(SMBCベンチャーキャピタル、みやこキャピタルなど)
  • シリーズC:2022年8月、約6億円(グローバル・ブレイン、第一生命保険など)

資金は以下に活用されています。

  • 子宮内フローラ検査の普及とラボ体制強化
  • 新検査(リキッドバイオプシーなど)の研究開発
  • 海外展開や製薬企業とのアライアンス推進

2023年には本社ラボを移転・増床するなど、成長基盤の整備にも注力しており、組織規模・提供サービスの両面で拡大を図っています。

市場規模:生殖医療・不妊治療の関連市場では、2030年に約273億ドルに達する見通し

(出典:Straits Research, 2023年

Varinosが事業を展開する遺伝子検査リプロダクティブヘルス(生殖関連ヘルスケア)、がん診断の市場規模は、国内外で近年急拡大しています。その背景には、個々人のゲノム情報を医療に活かす「ゲノム医療」への注目や、不妊治療ニーズの高まり、がんの早期発見技術への期待などが挙げられます。

まず世界の遺伝子検査市場は、Straits Researchによると2021年時点で約148億ドルに達しており、2030年には約361億ドル規模に成長すると予測されています。年平均成長率(CAGR)にして約10%と大きな伸びが見込まれており、ゲノム解析技術を活用したサービスの需要拡大が続く見通しです。

次に生殖医療・不妊治療に関連する市場では、世界の体外受精(IVF)市場規模が2022年に約171億ドル2030年には約273億ドルに達する見込みです。年7%程度の堅調な成長が予想され、妊孕性(にんようせい)保持サービスやフェムテック(女性向けテクノロジー)分野も含めたリプロダクティブヘルス全体で見ても年率14%前後の高い成長が報告されています。

一方、Varinosが今後参入を目指すがん遺伝子診断の領域も飛躍的な市場拡大が進んでいます。例えば世界のリキッドバイオプシー市場2022年に約41億ドルでしたが、2030年には約123億ドルと3倍規模に拡大する見通しです。CAGRにすると15%前後にもなり、特にがんゲノム医療が社会実装期を迎えつつある日本国内でも、がん関連遺伝子検査の市場規模は2023年度に前年度比110%超と急成長しています。

このようにVarinosの事業ドメインは、いずれも今後長期的な成長が期待されるマーケットに属しています。同社は世界初の技術や独自サービスによって、日本発のスタートアップとしてこれらの市場でユニークなポジションを築きつつあるのです。不妊治療領域では先行者利益を活かして国内トップクラスのシェアと知名度を獲得しつつあり、がん診断領域でもゲノム解析の専門チームを擁する強みから新規参入の有力候補となっています。

今後、海外展開の本格化や他分野への事業拡大が実現すれば、グローバル市場で存在感を示す可能性も十分にあるでしょう。政府の後押しする次世代医療や予防医療の文脈においても、Varinosの技術は大きな貢献が期待されています。

会社概要

  • 会社名:Varinos株式会社
  • 所在地:東京都江東区青海1-1-20 ダイバーシティ東京オフィスタワー21階
  • 設立年月日:2017年2月20日
  • 代表者名:桜庭 喜行(代表取締役CEO)
  • 公式HPhttps://varinos.com/

まとめ

Varinos株式会社は、ゲノム解析技術を駆使した独自の臨床検査サービスによって、不妊治療やがん診断といった医療分野に新風を吹き込むスタートアップです。世界初の子宮内フローラ検査を皮切りに、着床前後のゲノム検査や液体生検など事業領域を着実に広げています。社会課題である不妊・少子化へのソリューション提供のみならず、ゲノム医療の可能性を拡げる挑戦を続けており、今後も医療業界から高い関心が寄せられるでしょう。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。

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