最終更新日 26/02/09
海外スタートアップ

【AgCoTech】牛のメタン排出40%削減を実現する飼料ブロックで畜産に革新

サステナブル
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(引用:公式HP

地球温暖化対策の中でも、牛など家畜のゲップに含まれるメタンガスの削減は大きな課題です。メタンはCO₂の25倍以上の温室効果を持ち、畜産分野からの排出量は世界全体の温室効果ガスの約1割超にも達します。牛1頭は1日に500〜600リットルものメタンを発生させるとも言われ、その総量は無視できません。
こうした課題に対し、オーストラリア発のスタートアップAgCoTechは画期的なソリューションを提案しています。同社は牛が舐めて摂取する「薬用ブロック」技術を開発し、牛の生産性と健康を向上させながらメタン排出量を最大40%削減することに成功しました。
本記事では、このAgCoTechの技術概要・社会的意義・独自のビジネスモデルや市場規模について解説します。

事業内容:薬用ブロックによるメタン削減技術

薬用ブロックの成分とその効果とは?

同社が開発したこの薬用リックブロックは、牛にとってキャンディのように舐められる20kg程度の固形栄養ブロックです。主成分は岩塩・レモングラス・糖蜜・石灰・米ぬかなど現地調達可能な素材に、食品用マグネシウムやリン酸などのミネラルを配合して固めたもので、牛が自由になめることで胃(ルーメン)内の微生物バランスを変化させ、ゲップ由来のメタン発生を抑制します。1個のブロックは約120日もつ設計で、牛1頭あたり年間で最大40%の温室効果ガス排出削減効果(CO₂換算で約880kgの削減)が実証されています。
さらに栄養補給により牛の体重増加や乳量アップ、寄生虫や疾病の抑制といった副次的メリットも報告されており、実際にラオスでの試験では牛乳生産量が30%向上したとの評価も得ています。

(引用:公式HP

カーボンクレジットを活用した独自モデルを解説

(引用:reccessary.com

AgCoTechの事業がユニークなのは、その提供モデルにカーボンクレジットの仕組みを組み込んでいる点です。農家へのリックブロックは基本的に無償配布されますが、ブロック使用によるメタン削減量を同社がカーボンクレジットとして認証・取得し、これを温室効果ガス削減に関心の高い企業へ販売することで収益化しています。
たとえば英国の製薬企業などが1トンあたり30~50ドルでクレジットを購入し、その資金でブロック製造と農家への無料提供を継続するという循環型のビジネスモデルです。このモデルにより、小規模酪農家は経済負担なく牛の栄養改善と排出削減を実現でき、企業側もSDGs・脱炭素貢献としてのオフセット効果を得られるという双方にメリットがあります。

実際に同社のラオス現地法人であるAgCoTech Laoは、2023年9月の配布開始から2025年3月までに約5万個のブロックを4,000戸以上の農家に提供し、削減分のカーボンクレジットを取得・販売済みです。牛たちもブロックを好んで舐めるため健康状態が向上し、習慣的に自発的に帰舎するようになるなど、農家からも高い評価を受けています。

AgCoTechの創業経緯・今後の展望

(引用:公式HP

同社は創業者の豊富な経験と官民パートナーシップを活用し事業を拡大してきました。創業者の一人であるアラン・ギファード氏は動物栄養ヘルス分野で数十年の実績を持ち、過去には医療・動物向け製品の開発で1億ドル規模の資金調達を達成した経歴を有します。
こうした専門知見を背景に、AgCoTechはオーストラリア政府のBPP(Business Partnerships Platform)プログラムやラオス政府・大学、シドニー大学との協業によって技術検証と社会実装を進めました。数年に及ぶ準備期間を経て2023年4月にはラオス北部ルアンパバーンに初の生産工場を稼働させ、豪州・ラオス両政府の支援のもと年間3万5000個のブロック生産体制を確立しています。
今後は首都ビエンチャンでの第2工場建設やカンボジア・ケニアへの事業展開が計画されており、こうした成長フェーズを支えるための追加出資やパートナー連携にも期待が高まります。創業から現在まで、官民連携による助成金や戦略的投資が事業拡大の原動力となっており、資本政策よりも実証と社会インパクト創出を優先して歩んできた点も特徴と言えるでしょう。

市場規模

メタン排出削減に関わるグローバル市場規模の成長

(引用:Grand View Research

世界的に見ると、畜産由来メタン排出の削減ニーズの高まりを受けて関連市場は拡大しています。
牛など反芻家畜のメタン排出削減に関わるグローバル市場規模は2024年時点で約27〜28億ドルと推計され、2030年には42億ドル規模に達する見通しです。今後5〜10年で年率6〜7%程度の継続的な成長が予測されており、各国でメタン削減型の飼料添加物や新技術の商用化が進んでいます。

実際2024年にはオランダ発の飼料添加剤「Bovaer」が米国FDAの安全性承認を取得し、牛のメタン排出を約30%削減できる製品として北米市場で本格展開が始まりました。また海藻由来サプリメントやワクチン開発など、多様なアプローチへの投資も活発化しています。こうした技術革新により、畜産業界は生産性を維持しつつ持続可能性を高める転換期を迎えています。

日本国内におけるメタン削減に向けた取り組み

一方、日本国内でも畜産分野のメタン削減に向けた取り組みが加速し始めました。
2025年には出光興産グループが開発した牛用機能性飼料「ルミナップ」の主成分であるカシューナッツ殻油が、牛のゲップ由来メタンガス排出削減効果が認められ農林水産省から飼料添加物として正式に指定を受けています。(下図左)
また明治グループは温室効果ガス削減添加剤「ボベアー」の国内実証プロジェクトに着手しており、酪農分野でのメタン排出削減の転換点になる取り組みとして注目されています。(下図右)

(引用:idemitsu.com
(引用:meiji.com


こうした動きの中でAgCoTechのポジショニングはユニークです。先進国の大規模酪農向けソリューションが多い中、AgCoTechは新興国の小規模農家に焦点を当て、環境対策と貧困削減を両立するモデルで差別化しています。これは単なる技術提供に留まらず、SDGsの達成にも貢献するアプローチとして評価されつつあります。

会社概要

  • 会社名:AgCoTech Ltd
  • 所在地:9-11 Platinum St Crestmead QLD 4132Australia
  • 設立:2018年
  • 代表者:Allan Giffard(アラン・ギファード)
  • 公式HP:https://agcotechglobal.com/

まとめ

AgCoTechは、小さなブロックに革新的なアイデアを詰め込み、畜産業の課題解決と持続可能な発展に挑戦するスタートアップです。牛の生産効率や農家の収入を向上させつつ、地球温暖化の一因であるメタン排出を大幅に削減できるその技術とモデルは、まさに一石二鳥のソリューションと言えます。今後は生産拠点や提供地域の拡大に伴い、さらに多くの農家や企業がこの仕組みに参加することで、大きな環境インパクトが創出されることが期待されます。気候変動対応と農業支援を両立するAgCoTechの挑戦は、畜産業界のみならず世界の気候テック分野においても注目すべき存在でしょう。新興国発のソリューションがグローバルに波及し、より持続可能で豊かな畜産の未来を築くことを期待しつつ、今後の展開を応援したいと思います。

New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。株式会社AgCoTechのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もご覧ください。

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