
がんやアルツハイマー病などの難治疾患に対する新たな治療法の開発は、社会的に大きな課題です。
近年、光を使った治療(光治療)が低侵襲かつ副作用の少ない手法として注目されていますが、光を体の深部まで届けることが難しく、実用化は限られたがん種や皮膚疾患に留まっています。こうした中、名古屋大学発のスタートアップである「イルミメディカル株式会社」は、血管を通じて身体内部のどこにでも光を届ける革新的な医療機器を開発し、これまで治療が困難だった患者への新たな治療法を提供しようとしています。同社は4年以上にわたる研究成果を社会実装すべく、2023年に設立されました。血管内治療(IVR)技術と光学技術を組み合わせたこのアプローチにより、体内深部への光照射を可能にし、がん光免疫療法や光線力学療法など光治療の適用範囲を飛躍的に拡大しようとしています。
本記事では、イルミメディカル株式会社の事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
事業内容:血管内から体内深部に光を届ける革新的医療機器

イルミメディカル株式会社が開発している医療機器は、血管内に挿入できる細径カテーテル型の光照射デバイスです。同社は直径1.0〜1.5mm程度の極細カテーテルを血管内に通し、その先端から血管の側方へ特定波長の光を照射する独自技術「ET-BLIT®」を確立しました。
このデバイスから照射された光は血管壁を透過し、周囲の体内組織を効率的に照射できます。その結果、従来は体表から数ミリ程度しか届かなかった光を、体内の深部臓器にも送り届けることが可能になりました。世界初となるこの血管内光デリバリー技術により、「身体の内部、どこにでも光を届けられる医療機器」の実現に一歩近づいています。
治療適応の拡大に貢献
この技術がもたらす社会的意義は大きく、これまで光治療の臨床応用が難しかった領域で新たな治療法の創出が期待されています。
同社は現在、がん領域と神経・再生医療領域を主なターゲットとしています。がん治療では、光免疫療法や光線力学療法が一部で実用化されていますが、適用できるがん種や患部は限られていました。イルミメディカルの技術を用いれば、従来は光を届かせることが困難だった肺の深部や膵臓、脳腫瘍などにも光照射が可能となり、治療適応を大幅に拡大できる可能性があります。

またアルツハイマー病などの神経疾患では、脳内に蓄積する原因物質を光で制御・破壊するような先端研究が進んでいますが、体内で光を当てる手段がないため実用化に至っていません。同社のデバイス開発は、こうした「光を用いた新たな医療」の実現を後押ししうるものです。さらに将来的にはデバイスに診断機能も搭載し、一つのプラットフォームで治療と診断を一体化する「セラノスティクス」への展開も視野に入れています。
イルミメディカルが掲げるプラットフォーム戦略とは?
同社はプラットフォーム戦略を掲げ、自社技術を製薬企業や医療機器メーカーとの共同研究・ライセンス契約によって早期に収益化しつつ、医療への提供を目指しています。実際、日亜化学工業株式会社との協業で体深部への光治療を可能にする超小型レーザー光源搭載カテーテルの共同開発も進めており、産学連携・企業連携によって技術の完成度と事業化スピードを高めている点も注目に値します。対象ユーザーは光治療を必要とする患者さんですが、本デバイスは医師や医療機関向けの高度医療機器であり、将来的にはがん治療や神経疾患治療に携わる臨床現場での利用が見込まれます。
患者にとっては体への負担が少ない治療法の新たな選択肢となり得るため、治療法が無かった疾患に対して希望をもたらす革新的技術として期待されています。
資金調達:シリーズAラウンドで総額4.1億円を調達

イルミメディカル株式会社は、創業以来複数回の資金調達を成功させています。以下ではシリーズAの資金調達状況を紹介します。
・2025年10月20日:シリーズAラウンドの1stクローズで約3.4億円を調達。
リード投資家はUntroD Capital Japan株式会社で、既存の出資者(名南キャピタルや地域シードファンド等)からの追加出資に加え、新規にSMBCベンチャーキャピタルも参加しました。
・2026年1月30日:シリーズAラウンドの2ndクローズを完了し、シリーズA総額は約4.1億円に
追加参加した投資家は株式会社イチネンホールディングスや名古屋中小企業投資育成株式会社に加え、愛知信用金庫からの融資です。
調達資金の充当先
シリーズAで調達した資金は、
- 製品開発の加速と量産体制の構築
- グローバル展開に向けた薬事戦略の推進
- パイプライン(適応疾患)の拡充
- 人材採用による組織強化
などに充てられる予定です。
実際、治験開始に必要な品質・安全基準を満たすデバイスの安定供給体制づくりや、海外企業とのアライアンス準備、神経疾患領域への研究開発などに資金が投入され、事業のステージアップが図られています。
創業者で代表取締役の塚本俊彦氏は「日本発のチャレンジングな新医療機器開発に共感する力強い仲間が増え嬉しい。世界初の光治療用デバイスの開発を通じ、世界中の患者さまの健康に貢献していく」とコメントしており、資金面の後押しを受けてさらなる飛躍を目指す姿勢を示しています。
市場規模:光治療の将来性とは?

Straits Researchによれば、光医療市場規模は2024年に65.8億米ドルで、2033年には133.1億米ドルに達する見込みです。CAGRは8.15%とされています。北米が市場の約4割を占める最大地域で、欧州は成長率が最も高い見込みです。
特にがん治療への応用である光線力学療法の世界市場は現在約14~17億ドルとされ、今後10年間で年7~9%とさらに高い成長率が予測されています。また、光免疫療法は日本で2020年に頭頸部がんへの一部適用が承認されるなど注目を集めており、光を用いた治療技術全般への期待が高まっています。
イルミメディカルが市場に与えるインパクト
一方で、現在の光治療は前述のように「光を患部に届ける方法」に課題があり、適用可能な疾患や部位が限定されてきました。このボトルネックを解消できれば、市場規模は予測以上に拡大する可能性があります。
イルミメディカル株式会社の血管内光デリバリー技術はまさにこの問題に挑むものであり、実用化されれば光治療市場のゲームチェンジャーとなり得ます。同社の技術により、新たに膵臓がんや脳深部の腫瘍、アルツハイマー病など従来治療法が乏しかった領域にも光治療が応用できれば、多くの患者層が恩恵を受け、市場の裾野が大きく広がるでしょう。また、診断と治療を一体化したセラノスティクスの実現によって創薬や医療機器の新たなプラットフォーム市場が生まれる可能性もあります。こうした背景から、投資家や医療業界もイルミメディカルの動向に注目しており、日本発の医療スタートアップが世界市場でどのような地位を築くか、その期待が高まっています。
会社概要
- 会社名: イルミメディカル株式会社
- 所在地: 愛知県名古屋市守山区桜坂四丁目201番地 クリエイション・コア名古屋 207号室
- 設立: 2023年2月15日
- 代表者: 塚本 俊彦(代表取締役)
- 公式HP: https://illumimedical.com/
まとめ
血管を使って体内深部に光を届けるというイルミメディカル株式会社の挑戦は、医療の常識を塗り替える可能性を秘めています。同社の技術は、現在治療法のない患者さんに「新たな光を当てる」試みであり、その社会的インパクトは計り知れません。シリーズA資金調達により体制を強化したことで、今後は治験を経て実用化への道筋が一層具体化していくでしょう。名古屋発のスタートアップがグローバルに通用する医療機器を創出しようとする姿は、日本の医療産業におけるイノベーションの好例と言えます。今後の研究開発の進展と事業展開次第では、世界中の難治疾患患者に新しい治療の光を届ける日も遠くないかもしれません。読者の皆様も、ぜひ同社の動向に注目してみてください。
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