
現代ではフィッシング詐欺による被害が急増しています。警察庁の発表によれば、インターネットバンキングの不正送金被害は過去最高水準で推移しており、銀行やクレジットカード会社を装った巧妙な偽サイトによって、消費者の資産や個人情報が狙われるケースが後を絶ちません。海外製のセキュリティ製品では対応スピードや日本語サポートに課題があるとの声もあり、国産のフィッシング対策サービスへのニーズが高まっています。
こうした背景のなか、セブン銀行と電通総研の合弁により2019年に誕生したのが株式会社ACSiON(以下、ACSiON)です。金融犯罪対策の実務ノウハウとFinTechソリューション構築力を組み合わせ、日本市場に特化したフィッシング対策サービスを提供しています。本記事では、ACSiONの事業内容や資金調達動向、市場規模などを詳しく紹介します。

事業内容①:国内特化型のフィッシング対策サービス
主力サービスの「ACSiON フィッシング対策サービス」は、日本国内企業をターゲットとした詐欺サイトを24時間体制で監視し、早期に検出・通知することで被害拡大を未然に防ぐソリューションです。2021年1月の提供開始以降、金融機関を中心に導入が急速に広がりました。
このサービスの最大の特徴は、フィッシングサイト検出の圧倒的なスピードです。国内企業を狙ったフィッシングサイトが過去に立ち上がったネットワークを重点的に監視・チューニングすることで、消費者がフィッシングメールやSMSを受け取る前に対策着手できる仕組みを構築しました。従来のように「被害が発生してから対応する」のではなく、「被害が起きる前に封じ込める」プロアクティブな防御を実現しています。
技術面では、Google CloudのWeb Riskサービスと連携し、検出したフィッシングサイトを即座に登録することで、ユーザーが使うブラウザ上に警告画面を表示させる仕組みを備えています。グーグル・クラウド・ジャパンとWeb RiskサブミッションAPI契約を締結したことで、警告表示までの時間もさらに短縮されました。加えて2026年5月からは楽天カードと協業し、楽天IDやパスワードを入力した疑いのあるユーザーに警告を出す新機能も導入予定です。
新機能の対象となるのは、銀行・証券・クレジットカード会社・流通系企業など、消費者向けにオンラインサービスを提供する事業者。国産サービスならではの日本語窓口対応、そして検出後のテイクダウン(サイト閉鎖依頼)まで実効的にサポートしてくれる点は、海外製品にはない大きなメリットといえるでしょう。
事業内容②:不正検知プラットフォーム「Detecker」
もう一つの柱が、不正検知プラットフォーム「Detecker(ディテッカー)」です。セブン銀行が長年培ってきた金融犯罪対策の緻密なノウハウを不正検知モデルに搭載し、企業のオンラインサービスへの一連のアクセス挙動から不自然な動きをAIが検知する仕組みを持ちます。
たとえば、通常のユーザーとは異なるパターンでのログイン試行や、機械的な連続アクセス、不審なデバイス情報など、複数のシグナルを組み合わせて攻撃者の行動を見抜きます。ネット銀行の現場で実際に不正取引と向き合ってきた経験が反映されているため、単なる技術的な検知にとどまらず、金融実務に即した実効性の高い判定ロジックが強みです。
対象顧客は主に金融機関やEC事業者ですが、静岡銀行との業務提携では、オンライン本人確認・不正検知を連携させた次世代金融サービスプラットフォームの共同構築、さらに顔認証情報を活用した新しい金融サービスの開発など、より踏み込んだ取り組みも進めています。単発のセキュリティ製品ではなく、金融DXを支える基盤として発展している点が特徴的です。
創業背景:合弁会社としての設立と事業拡大戦略
ACSiONは外部VCからの資金調達ラウンド情報は公表されていませんが、設立の経緯そのものがユニークです。セブン銀行と株式会社電通国際情報サービス(現・電通総研)の合弁により、2019年7月16日に設立され、金融庁より「銀行業高度化等会社」の認可を取得したうえでサービス提供を開始しました。大手2社を親会社に持つことで、スタートアップでありながら安定した経営基盤と信頼性を確保しています。
代表取締役CEOの安田貴紀氏は、旧アイワイバンク銀行(現・セブン銀行)にて海外送金やインターネットバンキングなど口座サービス全般の商品開発を担ってきた人物です。取締役CIOの瀧下孝明氏は電通国際情報サービスにて金融ソリューション事業部のマーケティングソリューション部長やクラウドビジネス部長を歴任し、取締役COOには膳和範氏が就任しています。金融実務とITソリューションの双方に精通した経営体制が、実効性の高いサービス開発を支えているのです。
事業拡大戦略としては、全国地方銀行協会との共同利用スキームを活用した地方銀行への横展開が大きな柱となっています。加えて、証券会社・クレジットカード会社・流通系企業へも顧客基盤を広げており、国内クレジットカード会社13社やフィッシング対策協議会、日本クレジットカード協会との連携も発表されました。警視庁・静岡県警察・神奈川県警察・茨城県警察とサイバー犯罪対策に係る連携協定を締結するなど、官民連携も積極的に進めています。従業員数は50名規模、特許出願件数は11件に上り、着実に事業基盤を強化しています。
市場規模:拡大するサイバーセキュリティ市場とフィッシング被害の現状
世界のサイバーセキュリティ市場動向
Fortune Business Insightsの調査によれば、世界のサイバーセキュリティ市場は2024年に約2,190億ドル規模に達し、2032年には約2,483億ドルへと拡大すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は約14%と非常に高く、あらゆる業界でデジタル化が進むなか、防御側の投資も急速に伸びています。
国内フィッシング被害の急増
日本国内に目を向けると、フィッシング対策協議会に報告されたフィッシング報告件数は2023年に約120万件、2024年にはさらに増加傾向にあり、金融機関やクレジットカード会社を騙るケースが上位を占めています。警察庁が発表するインターネットバンキングによる不正送金被害額も過去最高水準で推移しており、社会的な問題として深刻化しているのが実情です。
ACSiONの市場ポジション
こうした環境下で、国産・日本語対応・金融実務ノウハウを兼ね備えたACSiONの立ち位置は非常に独自性が高いといえます。海外製ソリューションが多数を占める国内市場において、地方銀行協会レベルでの共同利用が始まっている点は、他社にはない大きなアドバンテージです。今後、地銀・証券・カード会社・流通・自治体・警察機関まで、業界横断で「共通インフラ」として広がる可能性を秘めています。
会社概要
- 会社名:株式会社ACSiON(アクシオン)
- 所在地:東京都中央区晴海一丁目8番10号
晴海アイランドトリトンスクエア
オフィスタワーX棟 43階 - 設立年月日:2019年7月16日
- 代表者名:代表取締役CEO 安田 貴紀
- 公式HP:https://www.acsion.co.jp/
まとめ
株式会社ACSiONは、セブン銀行と電通総研という異なる強みを持つ2社の合弁により誕生した、日本発のサイバーセキュリティスタートアップです。金融犯罪対策の実務ノウハウとFinTech構築力を融合させ、国内特化型のフィッシング対策サービスと不正検知プラットフォーム「Detecker」を軸に事業を拡大しています。
社名の由来である「Across the mission(業界を超えて社会全体で協力する)」という思想のとおり、地方銀行協会や日本クレジットカード協会、警察機関との連携など、業界横断型のプラットフォーム構築を着実に進めている点が印象的です。フィッシング被害が社会問題化するなか、同社のような国産・実効性の高いソリューションが果たす役割は今後ますます大きくなるでしょう。
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