
人材採用において、担当者自身も気づかない「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」が候補者の評価に影響し、多様性ある職場づくりの障壁となるケースがあります。実際、ある調査では人事担当者の約半数が自分の採用判断にバイアスがかかっていると認めています。こうした課題に対し、世界では履歴書の匿名化やバイアス研修など様々な対策が進み、DeloitteやHSBC、KPMGといった大手企業も選考時に応募者情報を隠す「ブラインド採用」を導入する動きが広がっています。
このような中、イギリス・オックスフォード発のスタートアップMeVitae(ミービタエ)はAIを活用し、採用プロセスから無意識の偏見を取り除くことで企業のダイバーシティ&インクルージョン(DE&I)推進を支援しています。脳神経科学の知見とAIを融合した独自の「Augmented Intelligence(拡張知能)」アプローチにより、人間の情報処理の限界や偏見を補完する技術開発を進めています。
本記事では、MeVitae社の事業内容や資金調達動向、市場規模等について詳しく紹介します。
事業内容①:AIを活用した匿名化・候補者スクリーニング
採用活動におけるMeVitaeの中核サービスは、応募者の履歴書・職務経歴書をAIで分析し、公平な評価ができるよう自動処理する「匿名化・スクリーニング」ソリューションです。企業の求人募集後に従来の採用管理システムへプラグイン形式で導入し、応募のあった大量の履歴書を瞬時に解析します。AIが各応募者の経歴を求人要件に照らしてスコアリングし、適合度の高い候補者をランク付けします。この際、応募者ごとのスコアの根拠となった要素を「ロードマップ」として可視化し、人事担当者がAIの判断プロセスを理解できるよう工夫されています。

さらに大きな特徴が、自然言語処理技術による「履歴書のブラインド化(匿名化)」です。各応募者の性別・国籍・年齢といった属性や氏名・写真等の個人特定情報をAIが自動検出し、画面上で黒塗り等に編集して非表示化します。これにより採用担当者は候補者の能力・適性に集中して評価でき、無意識の偏見を排除した公正なスクリーニングが可能になります。
例えば、左の履歴書ですが女性の写真、名前、連絡先、経歴、学歴が掲載されています。
採用側はブラインド化によって履歴書の中から特定のデータのみを閲覧するために、不要な情報をブラインド化することができます。
そのため、性別や学歴、見た目に縛られない選考が実現します。
事業内容②:採用データ分析におけるDE&I推進支援
MeVitaeは候補者の選考支援だけでなく、社内の人材データ分析によって組織のDE&Iを促進するプラットフォームも提供しています。
採用プロセス全体で発生している不均衡や偏りを可視化し、適切な改善策を提案・検証できるのが特徴です。例えば、選考過程のどの段階で特定の属性の応募者の合格率が低下しているかを分析し、その原因となるバイアス要因を特定します。また、その課題に対して「履歴書の匿名化を導入する」「面接官の構成を多様化する」等、取り得る対策の候補を提示し、企業が具体的なDE&I施策を打ち出せるよう支援します。
同プラットフォームのもう一つの重要な機能は、施策導入後の効果測定です。たとえば匿名化採用を導入した後で組織の採用者属性にどのような変化があったか、定量指標をモニタリングできます。これにより企業はDE&I施策のを投資対効果を把握し、継続的に人事戦略へ活かすことが可能となります。
創業から現在までの資金調達
MeVitae共同創業者のリハム・サッティCEO(左)とヴィヴェク・ドリアスワミCTO(右)。オックスフォード大学の博士課程で出会った二人は、神経科学とコンピュータサイエンスの知見を活かし2015年にMeVitaeを設立しました。

MeVitaeは研究開発型のスタートアップとして初期より各種助成金を活用し、事業を軌道に乗せてきました。
直近では2024年2月、約180万ドルの資金調達を実施しています。このラウンドはイギリスのVCであるApex Blackが主導し、HR領域の専門家であるGeoff Lloyd氏が社外取締役に迎えられました。Lloyd氏は「MeVitaeの革新的な技術は人材プールの幅と深さを大きく拡げ、採用の迅速化にも寄与する」と評価しています。
今回の調達資金により、プロダクト開発の加速と米国市場での事業拡大が見込まれます。現在MeVitaeの顧客の約70%は米国企業が占めており、同社は北米拠点開設も視野に入れて事業成長を図っています。なお、累計の調達額は約244万ドルに達しており、サービスは順調にスケールアップ段階に入っています。
市場規模:HRテック×DE&Iの拡大トレンド

企業の多様性推進ニーズの高まりを背景に、MeVitaeが属するHRテック領域(人事×テクノロジー)の市場は近年世界的に成長を遂げています。特にダイバーシティ&インクルージョン(D&I)支援サービス市場は急拡大しており、2022年時点の世界市場規模は約141億ドルに達します。今後も年平均11.4%という高い成長率で拡大し、2030年には約271億ドル規模にまで成長すると予測されています。
このようにD&Iソリューションへの需要は堅調ですが、企業が具体的にどのような施策で多様性向上を図るかについては、依然手探りの部分もあります。報道によれば「採用時の無意識バイアス対策」として履歴書の匿名化を導入する企業は年々増加傾向にあり、特に欧米では「優秀な人材を見逃さない」競争力強化策として広く認知され始めています。一方で、単に匿名化や研修を行うだけでは十分でないとの指摘もあり、経営層が主導してデータに基づく包括的なD&I戦略を立案・実行する重要性が増しています。幸いにも、近年はテクノロジー活用に前向きな企業が増え、AI採用ツールの導入率は全世界で85%を超えるとの調査もあります。
MeVitaeのようなスタートアップにとって、急拡大する市場の中で独自性を打ち出すことが成功の鍵となるでしょう。同社はAIの説明可能性や学術機関との連携による科学的エビデンスに強みを持ち、大手ITベンダーとの提携も進めています。競合としては採用プロセスの上流から下流まで包括的に介入できるプラットフォームは多くありません。
MeVitaeはこの点で先行者優位を築いており、「採用の公平化」というニッチ分野においてグローバル市場をリードする存在になる可能性を秘めています。
会社概要
- 会社名: MeVitae(ミービタエ)
- 所在地: F25, R27 Atlas Building, Harwell Oxford OX11 0QX GB
- 設立: 2015年
- 代表者: リハム・サッティ(CEO)
- 公式HP: https://www.mevitae.com/
まとめ
採用におけるアンコンシャス・バイアスの問題に真正面から挑むMeVitae社は、AIと科学的アプローチによって企業の人材戦略に新風を吹き込んでいます。無意識の偏見をテクノロジーで補正し、公平で効率的な採用を実現する同社のサービスは、これからの人事領域でますます重要性を増していくでしょう。実際、世界的な多様性推進の潮流と相まって、MeVitae社には大企業との提携やグローバル展開の機会が広がっています。経営層や人事担当者にとって、同社のソリューションは単なる採用効率化ツールに留まらず、「組織文化を変えうる戦略的パートナー」となる可能性を秘めています。
今後MeVitae社がさらなる資金調達やプロダクト拡充を通じて事業を拡大し、より多くの企業のDE&I推進に寄与していくことが期待されます。読者の皆様も、自社の採用課題やダイバーシティ戦略を振り返る中で、MeVitae社のような革新的スタートアップの動向にぜひ注目してみてください。
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