
現代社会において、私たちは常にスマートフォンの通知や情報デバイスの光に囲まれ、絶え間ない「情報の洪水」にさらされています。このようなデジタル過多な状況は、人々の集中力を削ぎ、安らぎであるはずの自宅空間さえも無機質なものに変えてしまう「情報疲れ」という社会課題を引き起こしています。IoTの普及により、利便性は飛躍的に向上した一方で、テクノロジーが人の注意を奪いすぎるという副作用が顕在化しているのです。
この課題に対し、京都に拠点を置くスタートアップ、mui Lab株式会社は、情報が人の暮らしにそっと溶け込み、必要な時にだけ現れる「カーム・テクノロジー(穏やかな技術)」という概念を提唱し、次世代のインターフェースを創出しています。同社は、先端的なソフトウェア技術と、天然木を用いた温かみのあるハードウェアを融合させることで、住まいを「機械の集合体」ではなく「家族の絆を育む場」へと変革しようとしています。
本記事では、mui Lab株式会社の事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
事業内容:カーム・テクノロジーの社会実装とプロダクト展開
事業内容①:天然木を用いたスマートホームコントローラー「muiボード」
mui Labのフラッグシッププロダクトである「muiボード」は、天然の木材にタッチパネル機能とディスプレイを融合させた、革新的なスマートホームコントローラーです 。このデバイスは、一見すると壁に掛けられた美しい一枚の木の板にしか見えませんが、表面を指でなぞると、木肌からやさしい光で文字やアイコンが浮かび上がります 。

このプロダクトが解決する最大の社会的意義は、テクノロジーと生活空間の「情緒的な調和」です。一般的な液晶ディスプレイは、オフの状態でも黒い板として空間に異質感を放ち、点灯すれば強い光で人の注意を奪いますが、muiボードは非表示時には完全にインテリアの一部として機能します 。ユーザーは木の柔らかな手触りを感じながら、照明やエアコンの操作、天気情報の確認、さらには家族への手書きメッセージの送信などを行うことができます 。
mui homeアプリの活用
mui Homeアプリとはmuiボードを有効活用するためのアプリです。
アプリからmuiボードの設定を行うことで、外出先から家族がmuiボードに描いたメッセージの確認が可能になります。また、muiボードに搭載される多様な機能の表示設定をアプリ上から行うことができます。

muiボードの独自性のポイントは、その「佇まい」の設計にあります。情報の通知を最小限に抑え、ユーザーが能動的に触れた時だけ反応する「カーム・UI」は、情報の洪水から人を解放し、家族との対話や静かな時間を守ることに寄与します 。また、世界共通のスマートホーム規格「Matter」のソフトウェア認証を日本企業としていち早く取得しており、メーカーを問わず多様な家電と連携できる高度な技術基盤を備えています。
事業内容②:不動産企業向けスマートホーム・プラットフォーム事業
mui Labは、自社のプロダクトを単体で販売するだけでなく、大手不動産会社や住宅メーカーと連携し、住宅そのものの付加価値を高めるB2B向けのプラットフォーム事業を展開しています。特に、三菱地所の総合スマートホームサービス「HOMETACT」や、小田急不動産の分譲住宅ブランド「LEAFIA」への標準採用が進んでおり、住空間における「やさしいテクノロジー」の社会実装を加速させています 。
事業内容③:エネルギーマネジメント(HEMS)と「Energy Window」

mui Labは、脱炭素社会の実現に向けた「エネルギーマネジメント」領域にも注力しています。同社の「HOMETACT Energy Window」は、家庭内のエネルギー利用状況を「窓の外の景色」という抽象的なビジュアルに変換して表示する革新的なシステムです。
解決すべき課題として、多くの消費者がエネルギー消費のデータを提示されても、具体的な行動変容に繋がりにくいという点があります。数値は時に冷たく、節約の強要に感じられることもあります。mui Labは「カーム・テクノロジー」を用いることで、省エネができている時は景色が明るく澄み渡り、使いすぎている時は景色のトーンが変わるといった、直感的なフィードバックを提供します 。これにより、家族全員が自然とエネルギーについて考え、楽しみながら省エネに取り組める環境を創出します 。
資金調達:2025年にシリーズBラウンドで資金調達を実施

mui Lab株式会社は、2025年8月に第三者割当増資によるシリーズBラウンドでの資金調達を実施したことを発表しました 。今回の調達は、同社が「やさしいテクノロジー」のリーディングカンパニーから、スマートホーム市場のデファクトスタンダードを担うプラットフォーマーへと進化するための、極めて重要な成長フェーズに位置づけられています。
【本資金調達概要】
- 調達額: 非公開
- 調達方法: 第三者割当増資
- 調達先:
・京都キャピタルパートナーズ(リード投資家)
・みやこキャピタル(既存投資家)
・静岡ガス(新規投資家)
・りそなキャピタル(新規投資家)
今回の調達では、地元の京都銀行グループである京都キャピタルパートナーズがリード投資家を務め、地域に根ざした支援体制を強固にしています 。また、新規投資家として参画した静岡ガスとは資本業務提携を締結しており、エネルギーとスマートホームを融合させた新サービスの共同開発を進めるなど、実業に直結する戦略的な調達となっています 。
市場規模:拡大するスマートホーム製品市場
mui Labが属するスマートホーム製品市場は、世界的に高い成長を続けており、特に日本国内においても、エネルギー管理への関心の高まりや高齢化社会への対応といった文脈から、普及が急速に進むと予測されています。
スマートホーム製品市場の現状と将来予測

スマートホーム製品市場は、かつての「便利な家電の接続」というフェーズから、「持続可能な生活」や「ウェルビーイング」という高付加価値なフェーズへと移行しています。
世界市場においては、2024年に1036.1億米ドルに達し、2033年には3063.2億米ドルに達するとされています。
年平均成長率は12.8 %です。
市場を牽引する要因
- エネルギー管理(HEMS)の需要急増
電気料金の高騰やカーボンニュートラルへの社会的な要請を受け、家庭内の電力を最適化するニーズが極めて高まっています 。特に日本政府が進めるGX志向型住宅への補助金制度が、mui Labが強みとするHEMS対応コントローラーの導入を強く後押ししています 。
- ウェルビーイングへの意識変容
2025年以降、消費者の価値観は「物理的な豊かさ」から「精神的なウェルビーイング」へと深化すると予測されています 。デジタル疲れを最小限に抑え、リラックスできる住環境を創出するmui Labの「カーム・テクノロジー」は、このトレンドに最も合致したソリューションの一つです。 - Matter規格による相互運用の実現
スマートホームの普及を阻んできた「メーカー間の通信の壁」が、世界共通規格「Matter」の登場により解消されつつあります 。mui Labはいち早くこの規格に対応したことで、特定のメーカーに縛られない柔軟なプラットフォーム提供が可能になり、市場内での競争優位性を高めています 。
会社概要
- 会社名:mui Lab株式会社
- 所在地:京都府京都市中京区夷川通柳馬場東入俵屋町295-1
- 設立: 2017年10月
- 代表者名: 代表取締役社長 大木和典
- 公式HP: https://muilab.com/
まとめ
mui Lab株式会社は、単なるスマートホームデバイスのメーカーではなく、テクノロジーと人間の関係性を再定義する「やさしいテクノロジーの専門家」です。京都発の美意識が宿る「muiボード」や、エネルギー消費を景色に変える「Energy Window」といったプロダクトは、私たちの暮らしをより豊かで穏やかなものに変える大きな可能性を秘めています。
同社が提唱する「カーム・テクノロジー」という概念は、今後あらゆるIoT機器が目指すべき指針となるでしょう。2025年度のグッドデザイン賞受賞や東洋経済「すごいベンチャー100」への選出、そしてシリーズBでの戦略的な資金調達の成功は、同社のビジョンが社会から広く支持されていることの証です。2030年の「300万世帯への普及」という目標に向け、mui Labは日本のスマートホーム市場における不可欠なプラットフォーマーとしての歩みを確実に進めています。
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