
現代社会において、物流は欠かすことのできない生命線ですが、過去には「物流の2024年問題」と称されたり、現在は再配達による社会的損失といった大きな壁に直面しています。特に60年間変化のなかったコインロッカーは、単なる荷物預けの場に留まり、現代のEC需要や効率的な物流網との連携が断絶されていました。
株式会社SPACERは「開けていない扉を開ける」というミッションを掲げ、スマートロッカー「SPACER(スペースアール)」によって、この物理的な「箱」を物流のハブへと進化させることで、配送効率の向上と自由な受け渡しを実現しています 。
本記事では、株式会社SPACERの事業内容や資金調達動向、市場の規模等について詳しく紹介します。
次世代スマートロッカー「SPACER」とは?
株式会社SPACERが展開する主力サービス「SPACER(スペースアール)」は、スマートフォンを鍵として利用する次世代型のスマートロッカーです 。従来のコインロッカーのような物理的な鍵や暗証番号の入力を一切必要とせず、専用アプリやWebサイトから予約、決済、解錠のすべてを完結できる点が最大の特徴です 。これにより、利用者は「現地に行ってみるまで空きがあるかわからない」という不安から解放され、最大48時間前からの予約機能を通じて確実に荷物預けの場所を確保できるようになりました 。
SPACERの技術的独自性は、BLE(Bluetooth Low Energy)通信の採用とクラウド管理の融合にあります。ロッカー本体に高価な液晶パネルや通信設備を搭載する必要がないため、設置コストを大幅に抑制でき、これまで設置が困難だった狭小スペースや電源確保が難しい場所への展開も可能です 。また、URLによる「鍵の共有」機能は、家族や友人との荷物の受け渡しだけでなく、CtoC取引や業務用の備品管理など、従来のロッカーでは不可能だった多様なユースケースを創出しています 。

活用事例①:駅を「物流のハブ」へ
SPACERは、鉄道事業者と強力なタッグを組み、駅という「人流の拠点」を「物流の拠点」へと進化させるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store/Station)事業を推進しています 。これは、オンラインで購入した商品を駅のロッカーで受け取れる仕組みであり、主要な鉄道各社と連携した独自のブランド展開を行っています 。
西武鉄道との「BOPISTA(ボピスタ)」、JR西日本との「pikuraku(ピクラク)」、阪急電鉄との「toriclo(とりクロ)」など、地域に根ざしたサービスを提供しています 。これらのサービスでは、単なる荷物預けロッカーとしての機能に加え、ECサイトで注文した商品や、クリーニングの取り次ぎ、さらには食品ロス削減サービス「TABETE」との連携による商品受け取りなど、1つのロッカーで多種多様なサービスを利用できる「マルチコンテンツ・オープンロッカー」を実現しています 。
貨客混載によるサステナブルな物流

特筆すべきは、客車を利用して荷物を運ぶ「貨客混載」への取り組みです 。配送トラックだけに頼らず、既存の鉄道網を活用して荷物を駅ロッカーまで届けることで、走行距離の短縮と効率化を図っています 。これは物流業界のドライバー不足を補うだけでなく、都市部における交通渋滞の緩和や環境負荷の低減にも大きく寄与する、極めて社会的意義の高い事業です 。
活用事例②:手荷物当日配送サービス「pikuraku PORTER」
「手ぶら観光」を実現する当日配送の仕組み
SPACERが観光立国の実現に向けて注力しているのが、ロッカーに預けた手荷物をその日のうちに宿泊先ホテルへ届ける「pikuraku PORTER」サービスです 。このサービスは、駅に設置されたスマートロッカーに荷物を預ける際に配送を選択するだけで、観光客は重い荷物から解放され、到着したホテルで荷物を受け取ることができる革新的なシステムです 。

当初は大阪駅や周辺駅で開始されましたが、現在は首都圏、京都エリア、さらには四国などへと急速にエリアを拡大しています 。特にインバウンド観光客の増加に伴い、言語の壁や現金決済の手間がないスマートロッカーへの需要は高まっており、しまなみ海道周辺など自転車観光が盛んな地域でも、移動の利便性を飛躍的に向上させています 。
観光地における混雑緩和と経済波及効果
重い荷物を持った観光客が公共交通機関を利用することは、車内の混雑を招く一因となりますが、このサービスによって「手ぶら」での移動を促すことで、混雑緩和に直結します 。また、観光客が身軽になることで、買い物や飲食といった追加の観光消費が促進されるという経済的な波及効果も期待されています 。

資金調達:累計10億円の調達と製造・地域インフラとの強力なシナジー
株式会社SPACERは、2025年12月25日にシリーズBラウンドを累計約10億円で完了したことを発表しました 。この資金調達は、当初の計画を上回る規模でのファイナルクローズとなり、同社が掲げる「スマートロッカーを起点とした未来の受け渡しサービス」の構築に向けた期待の高さが伺えます 。
今回の最新ラウンドでは、住宅設備機器大手である富士工業株式会社や、埼玉県・日本政策金融公庫などが連携する「埼玉県渋沢MIXイノベーション創出支援ファンド」などが引受先として名を連ねています 。特にキッチン用レンジフード国内シェアNo.1を誇る富士工業との提携は、次世代スマートロッカーの共同開発と、高品質なハードウェアの量産体制を確立する上で極めて重要な戦略的一手です 。

資金調達概要
- 最新調達日:2025年12月25日
- 調達総額(累計):約10億円
- 調達ラウンド:シリーズB
- 主要な引受先:富士工業株式会社、埼玉県渋沢MIXファンド等
- 主な資金用途:ハードウェア量産、物流ハブ実証、システム強化
市場規模:物流DXとスマートロッカーが牽引する新たな配送エコシステム
世界市場の急成長と将来予測
スマートロッカー市場は、世界規模で劇的な拡大を続けています。2025年における世界のスマートロッカー市場規模は約32.8億米ドルと評価されており、2032年には約79.7億米ドルに達すると予測されています 。年平均成長率は13.53%という高い水準を維持しており、EC利用の日常化に伴う「非対面受取」と「ラストワンマイルの配送効率化」が、主要な成長ドライバーとなっています。
市場内におけるSPACERのポジション
SPACERは、単なる「宅配ロッカー」ではなく駅や公共空間を拠点とした「マルチコンテンツ・プラットフォーム」という独自のポジションを確立しています。鉄道事業者の既存インフラとSPACERのデジタル技術を融合させることで、既存の宅配ロッカー事業者とは異なる「人流と物流の融合」という付加価値を市場に提供しています 。
会社概要
- 会社名: 株式会社SPACER
- 所在地: 東京都中央区日本橋3丁目9-1 日本橋三丁目スクエア 3F CROSSCOOP内
- 設立年月日: 2016年7月
- 代表者名: 代表取締役社長 徳永 大輔
- 公式HP URL: https://spacer.co.jp/
まとめ
株式会社SPACERは、60年間変わることのなかったコインロッカーという物理的な箱に、デジタルという「鍵」と「知能」を吹き込むことで、物流2024年問題という巨大な社会課題に立ち向かっています 。スマホ予約やホテル配送、さらには処方薬受取やアルコールチェック連動といった多機能な展開は、単なる荷物預けのサービスを超え、私たちの生活をより自由で効率的なものへとアップデートし続けています 。
シリーズBで約10億円の資金を確保し、製造大手や地域インフラとの強固なパートナーシップを築いた同社は、今後ますます「駅が物流のハブになる」という新しい常識を社会に定着させていくでしょう 。インバウンド需要の回復や物流DXの加速という追い風を受け、SPACERが創り出す「開けていない扉を開ける」未来に、ビジネス界からも熱い視線が注がれています。
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