
近年、アパレル業界では、シーズンごとに膨大な新商品が投入され、色やサイズによってSKU(商品識別単位)が細分化されています。在庫管理は極めて複雑化し、欠品による機会損失や過剰在庫の廃棄ロスが常態化しているのが実情です。国内で廃棄される衣類は年間約47.0万トンにのぼり、店舗の8割以上が深刻な人手不足を実感しているとされています。
こうした構造的な課題にAIで切り込むのが、株式会社ハイクリ(以下、ハイクリ)です。同社はアパレル産業の課題解決を目指すAIスタートアップで、AIを活用してファッション事業者や消費者に新しい体験や幸福を与えることを目指しています。
本記事では、同社の事業内容や資金調達動向、市場規模を詳しく紹介します。
事業内容:在庫管理AI SaaS「Vestory」

ハイクリが提供する「在庫管理AI SaaS Vestory(ベストリー)」は、ファッション業界に特化した在庫管理AI SaaSです。需要予測AIによってSKU単位の販売見通しを算出し、発注判断と在庫運用を高度化することで、売上拡大と健全なキャッシュフロー維持の両立を支援します。
主力機能は、独自開発のAI販売数予測モデルです。追加発注すべき品番の自動抽出、最適な発注数のシミュレーション、マークダウン(値下げ)による粗利最大化シミュレーション、EC在庫の最適確保など、期中の在庫・販売管理を一気通貫で支援します。AIモデルにはLightGBM、LSTM、TimeMixer、Prophetなどの機械学習手法を組み合わせ、Next.jsとPythonによるデータ処理パイプラインで構築されています。

アパレルでは、追加発注やマークダウンといったMD(マーチャンダイジング)業務の多くが、いまだ経験や勘に頼って行われています。Vestoryは在庫消化日数予測、売れ点数予測、適正価格提案などの機能を備え、欠品リスクの低減と粗利率向上を同時に実現します。「売上を伸ばすべき売れ筋品番」と「仕入れを抑制すべき売れ残りそうな品番」を明確に可視化し、最適なアクションを提案する仕組みです。
汎用的な在庫管理システムとの違いは、アパレル業界特有のリードタイム、OFF率、品番体系に合わせたカスタマイズ、そして現場定着まで見据えた伴走型の導入支援にあります。経験の浅いメンバーでもAIのサポートで精度の高い発注判断が可能になるため、人手不足に悩む小売・流通企業に適したサービスといえるでしょう。
実績
初期費用0円、最短2週間で導入できる点もVestoryの強みです。導入事例としては、ZOZOTOWNを中心に数十ブランドを展開する株式会社アンティローザが挙げられます。Excelでの煩雑な管理から脱却し、属人性を排除した結果、業務工数の大幅削減と発注・消化施策の精度向上を実現しました。
2026年5月には、1920年創立の老舗アパレルメーカー株式会社ナイガイへの導入も発表され、CROSS MALLとのAPI連携によりSKU単位のデータを一元管理する基盤が整備されています。
資金調達:プレシードラウンドでANOBAKAから調達

株式会社ハイクリは、2025年3月にプレシードラウンドの資金調達を実施しました。
調達先であるANOBAKAは生成AIスタートアップへの投資活動を積極展開しているVCです。代表取締役の長野泰和氏は「ハイクリの事業でアパレル業界がアップデートしていくのが楽しみ」とコメントし、同社の事業ポテンシャルを高く評価しています。
調達資金は、新規事業開発と事業拡大に伴う人材採用に充てられる方針です。エンジニア、BizDev、営業といった職種で採用を進めており、全自動化を実現する新機能開発の加速を掲げています。EC在庫ブロック機能、マークダウンシミュレーション機能、初回発注量最適化など、プロダクトの機能拡充も継続的に進められています。
なお、ハイクリの経営陣やアドバイザーには、AWS、マネーフォワード、エムスリー、DeNA、ファッションポケット(現ニューラルグループ)といったグローバル企業や急成長スタートアップの出身者が集結しています。大手セレクトショップや大手カジュアルアパレル企業の経営・事業部門で中核を担ったプロフェッショナルもアドバイザーとして多数参画しており、テクノロジーと業界知見の両面から事業基盤が支えられている点も特徴です。
本資金調達概要
- 調達日:2025年3月
- 調達額:非公開(資本金・資本準備金は約2,800万円)
- 調達方法:第三者割当増資(プレシードラウンド)
- 調達先:ANOBAKA
市場規模:成長続くAI活用サプライチェーン計画市場
国内市場の現状と将来予測
2026年4月、株式会社ハイクリは、デロイト トーマツ ミック経済研究所が発刊した市場調査レポート「AIを活用したサプライチェーン計画ソリューション市場の現状と展望 2025年度版」において、国内外の主要ベンダー17社の1社として選出されました。
同レポートによれば、AIを活用したサプライチェーン計画ソリューション市場は、2023年度の505億円から年平均成長率(CAGR)12.8%で成長し、2030年度には1,200億円規模に達すると予測されています。生成AIや機械学習の進化に伴い、需要予測・在庫最適化を担うソリューションへの投資は今後も加速する見込みです。
競合環境とハイクリのポジション
同レポートに掲載されている企業には、日立製作所、富士通、SAPジャパン、Blue Yonderジャパン、Anaplan Japan、フルカイテン、o9ソリューションズ・ジャパンといった大手ITベンダーや専門SaaSが並びます。創業から約2年のスタートアップであるハイクリがこの一翼を担う企業として認知された意義は、決して小さくないでしょう。
Vestoryのポジショニング
大手ERPや汎用SCMソリューションが幅広い業界に対応する一方、Vestoryは「アパレル専業・OTB(Open To Buy)管理特化」というニッチかつ深い領域でポジションを確立しています。アパレル業界の業務特性を踏まえた機能設計と伴走型サポートにより、汎用型ツールでは対応しきれない現場課題に応えられる点が競争優位です。EC化の進展や生成AIの浸透を背景に、Vestoryが市場拡大の波に乗る可能性は十分にあるといえそうです。
会社概要
- 会社名:株式会社ハイクリ
- 所在地:東京都中野区中央4-4-2 ヘリオス6新中野4階
- 設立年月日:2024年5月
- 代表者名:兼松 洋輔
- 公式HP:https://www.hicrea.co.jp/
まとめ
アパレル業界が抱える人手不足、廃棄ロス、属人化といった構造的な課題は、AIの活用なしには解決が難しい領域です。AIサプライチェーン市場は今後も力強い成長が見込まれており、その中で「アパレル専業」というポジションを確立したハイクリの動向には、引き続き注目が集まるでしょう。
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