
製造業や物流の現場では、少子高齢化による人手不足や変種変量生産への対応など、課題が山積しています。なかでも工程間の搬送作業は人手依存が根強く残り、生産性向上を阻む大きなボトルネックです。従来の自律走行搬送ロボット(AMR)は整った倉庫の床では威力を発揮するものの、建設現場や工場のグレーチング(格子状の床)といった荒れた環境ではうまく機能しない――そんな壁が長らく立ちはだかってきました。
こうした課題に真正面から挑むのが、福岡県北九州市に本社を構える株式会社TriOrbです。3つの球体と3つのモーターで構成された独自の360°全方向移動プラットフォーム「TriOrb BASE」を武器に、既存ロボットでは対応困難だった現場の自動化を実現しています。
本記事では、株式会社TriOrbの事業内容や資金調達動向、市場規模などを詳しく紹介します。
事業内容:世界初の球駆動式360°全方向移動プラットフォーム「TriOrb BASE」

株式会社TriOrbが開発する「TriOrb BASE」は、3つの球体と3つのモーターを組み合わせた世界初の球駆動式全方向移動機構です。
前後左右はもちろん、斜め方向や回転も含めたあらゆる方向へ、切り返し動作なしで自在に移動できる点が最大の特長となっています。
技術的な独自性と強み
全方向移動機構としてよく知られる「メカナムホイール」には、転がる方向によって運動特性が変わってしまう弱点がありました。一方TriOrb BASEは、どの方向にも同じ挙動で正確に動き、mm単位の高精度移動を実現します。50cm四方のコンパクトな筐体ながら最大1tの可搬重量に対応し、段差・溝・傾斜といった外乱走破性も備え、狭路や荒れた床面でも安定稼働します。
石田CEOは「顧客が最も重視するのは、とにかく止まらないこと」と語ります。スペック上の性能に加え、滑りやすい素材や狭い通路でも動き続ける「再現性」こそがTriOrbの本質的な価値だといえるでしょう。
幅広い応用分野
想定される用途は多岐にわたります。半導体製造現場ではクリーン度を保つグレーチング床の段差を乗り越えられ、建設現場では日々変化する荒れた路面にも対応できます。鉄鋼などの重量物や長尺物については、複数台のTriOrb BASEを協調させる「協調搬送システム」により、1台では運べない対象物にも対応可能です。
ターゲットと導入メリット
主なターゲットは、製造業・建設業・物流業などで変種変量生産や労働人口減少に直面する企業です。工作機械メーカーのスギノマシンでは、TriOrb BASEを組み込みアーム姿勢を保ったまま全方向移動する構成を採用。大回りや切り返しが不要となり、タクトタイム短縮と作業安定化を実現しました。既存レイアウトを変えずに導入できる点も高く評価されています。
資金調達:シリーズBセカンドクローズで3億円、累計45.3億円を達成

株式会社TriOrbは2026年、シリーズBラウンドのセカンドクローズにて、第三者割当増資と融資を合わせて3億円の追加調達を実施しました。ファーストクローズの28.8億円と合わせ、累計調達額は45.3億円に達しています。
セカンドクローズの詳細
- 調達額:3億円
- 調達方法:第三者割当増資および融資
- 引受先(第三者割当増資):株式会社国際協力銀行(JBIC)、豊田通商株式会社
- 融資元:株式会社三井住友銀行
とりわけ豊田通商とは、機械設備分野の知見とTriOrbのソリューションを掛け合わせ、生産ラインの構成を自在に変更できる新たな生産体制の構築を、グローバル展開も見据えて進める方針です。
ファーストクローズと過去の調達経緯
ファーストクローズでは、未来創生3号ファンドを運営するスパークス・アセット・マネジメント、みずほキャピタルなどが新たに加わり、計7社が引受先となりました。加えて、みずほ銀行と三菱UFJ銀行から計5.9億円の融資も調達しています。
さかのぼれば、シードラウンドではJ-KISS型新株予約権により4,000万円、プレシリーズBラウンドでは総額2.5億円を調達しており、段階的に投資家からの支持を広げてきた経緯があります。
資金使途
調達資金は、市場への本格導入に向けたプロダクトの量産化、米国市場での事業展開、組織拡大に充てられます。2026年1月には米国法人をミシガン州デトロイトに設立、同年2月には新東京拠点も開設予定であり、事業フェーズは「PoC」から「量産」「グローバル」へ本格的に移行しつつあります。
市場規模:拡大するロボティクス市場と全方向移動技術の可能性
世界と日本のロボティクス市場動向
世界のロボティクス市場は2026年に8,827億米ドル規模と推定され、2031年には2兆1,856億米ドルに達する見込みです。2026年から2031年にかけてのCAGR(年平均成長率)は19.86%と、極めて高い成長率が予測されています。
国内に目を向けると、製造業向けロボット市場は2024年に1万1,650台へ到達。IMARCグループの予測によれば、2033年には4万6,870台まで拡大し、2025年から2033年にかけてCAGR16.73%で成長する見通しです。
成長を牽引する要因
市場成長の背景には、自動化技術における日本のリーダーシップ、労働力の高齢化による人件費上昇、製造業における精密さへの需要増、そしてインダストリー4.0とスマートファクトリーを推進する政府の取り組みがあります。日本・米国・西欧諸国では人口動態の逆風により、自動化は「コスト削減」から「生産能力確保」のモードへとシフトしつつあります。
TriOrbが狙うポジション
製造業や物流倉庫では基幹プロセスの自動化が進む一方、工程間搬送は今も手作業への依存が根強く、生産性向上の大きなボトルネックとなっています。とくに重量物や長尺物といった従来の搬送ロボットでは扱いにくい対象への対応には、より高度な移動機構が求められます。
TriOrb BASEは、この「既存AMRでは対応できなかった領域」に切り込むソリューションであり、市場拡大の波と現場ニーズの両方を捉えるポジションを固めつつあります。経済産業省の資料でも、日本のAIロボティクス分野の産業競争力維持が課題として指摘されており、TriOrbのようなディープテックスタートアップへの期待は高まっています。
会社概要
- 会社名:株式会社TriOrb(トライオーブ)
- 所在地:福岡県北九州市
- 設立年月日:2023年2月
- 代表者名:石田 秀一(代表取締役CEO)
- 公式HP:https://triorb.co.jp/
まとめ
株式会社TriOrbは、九州工業大学発の球駆動式全方向移動技術を基盤に、製造業や建設現場の自動化に新たな地平を切り拓くディープテックスタートアップです。石田CEOが掲げるビジョン「Holonomic World(すべての移動制約が解放された世界)」は、単なるロボット開発を超え、工程設計や人とロボットの協働のあり方そのものを再定義する挑戦だといえます。
シリーズBラウンドを通じた累計45.3億円の調達、米国法人の設立、そして豊田通商をはじめとする有力企業との連携により、同社は「PoC」から「量産・グローバル展開」のフェーズへ確実に歩みを進めています。人手不足と生産性向上という社会課題に対し、技術と現場のリアルを橋渡しするTriOrbの今後は、日本のものづくりの未来を占う試金石になりそうです。
New Venture Voiceでは、このような注目スタートアップを多数紹介しています。株式会社TriOrbのように、国内外の面白い企業についてもまとめているため、関連記事もぜひご覧ください。
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