
女性アスリートにとって、月経周期はパフォーマンスを大きく左右する要因のひとつです。しかし、日々のトレーニングや試合スケジュールに追われるなかで、自身のホルモン変動や体調変化を科学的に把握できている選手はごくわずかでしょう。従来の血液検査は頻繁に実施しづらく、どうしても感覚頼みになりがちでした。この課題に対し、NPO法人レッドボックスジャパンは「経血」というこれまで廃棄されてきた生体サンプルに着目し、女性特有のバイオデータを継続的に取得・解析する新たなヘルスケアインフラを築こうとしています。本記事では、同社の事業内容や資金調達動向、市場規模などを詳しく紹介します。
事業内容:経血由来バイオデータで女性アスリートのコンディショニングを最適化
「レッドボックスバイオ」は、経血を活用した時系列バイオデータ解析サービスです。従来のスポット的な健康診断では捉えきれなかった縦断的なデータを、採血なしで取得できる点が最大の特徴。女性は年間約12回、生体サンプルを得る機会があり、この高頻度な機会をヘルスケアに転換する発想こそが同社の根幹にあります。

網羅的な解析項目とAIによる可視化
解析対象は非常に幅広く、経血からタンパク質、ホルモン状態、鉄分、炎症反応、細胞情報、ミトコンドリア指標などを網羅的に測定します。毎月のデータは時系列で保存され、AIが周期変化や長期傾向を読み取り、個人の身体パターンを可視化する仕組みです。過去のデータから次の生理日・排卵日を高精度に予測できるほか、イライラ・むくみ・頭痛などの症状も周期データと照合することで、事前の対策につなげられます。
チーム単位でのコンディション管理
選手個人だけでなく、チーム全体を統合的に管理できるダッシュボードも用意されています。鉄分値の低下傾向や月経異常の可能性が個別にフラグ表示され、コーチやトレーナーが科学的根拠に基づいてトレーニング強度を調整できる点は大きな利点です。サンプル採取には生理用ナプキン、月経カップ、月経ディスクなどが使え、選手への負担も最小限に抑えられています。
ターゲットとメリット
主なターゲットは女子スポーツチームや女性アスリートで、今後は企業の福利厚生や一般消費者にも段階的に拡大する計画です。料金プランは「ミニ(年4回解析・月額23,800円)」「アスリート(毎月解析・月額69,800円)」「スポーツチーム(応相談)」の3種類が用意されており、目的や規模に応じて選べます。すでに女子サッカー部(選手11名)のコンディションサマリーや月次バイオマーカー全45項目の解析が先行提供されており、実効性を示す事例となっています。
資金調達:NPOからのスピンオフとPoC先行型の成長戦略
NPO法人レッドボックスジャパンの代表取締役は尾熊涼一氏。関連NPOの代表理事である尾熊栞奈氏は、宇宙素材ベンチャーとの共同研究に関わった経歴の持ち主です。2019年12月に任意団体としてレッドボックスジャパンを創業し、生理用品の寄付を通した学生支援を開始しました。なお、NPO法人としての認証は令和6年1月30日(2024年)に取得しています。
NPO活動から生まれた発想の転換
レッドボックスジャパンは、全国800以上の学校・自治体・企業と連携し、累計806施設・50万枚を超える生理用品を提供してきました。この活動を通じて「経血は毎月廃棄されている貴重なバイオサンプル」という価値転換の発想に至り、ヘルスケア事業への着眼点が生まれました。Jリーグからの表彰を受けるなど、スポーツ界からも評価される実績が事業展開の土壌となっています。
現在の成長段階
同社は事業の第一段階として、女子スポーツチームとの実証実験(PoC)を通じたデータ取得・活用モデルの確立を進めており、初期の実証フェーズに相当します。すでに有料サービスとしての商業展開も始めており、今後は企業の福利厚生や一般消費者向けサービスへ段階的に提供範囲を広げていく方針です。NPO活動で培った信頼と全国的なネットワークを土台に、着実に事業基盤を築いている点は特筆すべきポイントでしょう。
市場規模:拡大するフェムテック市場とスポーツヘルスケアの交差点

世界のフェムテック市場は年率10%超で成長
女性の健康課題に特化したテクノロジー領域「フェムテック」は、世界的に急成長を遂げている分野です。各種調査によれば、世界のフェムテック市場は2023年時点で約510億ドル規模とされ、2030年には1,000億ドルを超える規模へ拡大すると予測されています。年平均成長率(CAGR)は約8〜10%で、月経・妊娠・更年期などライフステージ全般にわたるソリューションが求められています。
国内フェムテック市場の広がり
日本国内でもフェムテック市場は急速に立ち上がっており、経済産業省の試算によれば、女性特有の健康課題による経済損失は年間約3.4兆円にのぼるとされています。こうした背景から、企業の福利厚生や自治体施策としてフェムテック製品・サービスの導入が広がりつつあり、国内市場は2025年に向けて数千億円規模に達すると見込まれています。
スポーツヘルスケア領域でのポジション
女性アスリート向けのヘルスケア領域は、フェムテック市場の中でも特に伸びしろの大きいセグメントです。既存の吸水ショーツやアプリ型月経管理ツールが「快適な過ごし方」に主眼を置くのに対し、レッドボックスバイオは経血そのものをバイオサンプルとして活用し、バイオマーカーベースの科学的介入を提供する点で明確に差別化されています。スポーツチーム向けのB2Bモデルを先行させ、データ基盤を蓄積しながら一般消費者市場への展開余地を残す戦略は、今後の成長ポテンシャルを強く感じさせます。
会社概要
- 会社名:NPO法人レッドボックスジャパン
- 所在地:東京都渋谷区本町一丁目14番2号
- 設立年月日:2024年2月
- 代表者名:尾熊 栞奈
- 公式HP:https://redboxjapan.org/
まとめ
NPO法人レッドボックスジャパンは、これまで廃棄されてきた経血を「毎月得られる貴重なバイオサンプル」として捉え直し、女性アスリートのコンディショニングを科学的に最適化する新たなヘルスケアインフラを構築しています。NPO法人としての社会貢献活動から得た知見とネットワークを土台に、バイオ・AI解析の専門家と連携しながらスポーツチーム向けPoCを起点に事業を段階的に広げている点は、社会性と事業性を両立させる好例といえます。女性の健康課題への理解が社会全体で深まる今、同社の取り組みはアスリートに留まらず、あらゆる女性のウェルビーイング向上に貢献する可能性を秘めています。今後の展開から目が離せません。
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