
少子高齢化が進む日本において、製造業や物流現場の労働力不足は深刻さを増しています。経済産業省や各種調査では、生産年齢人口の減少により2030年代には数百万人規模の人手不足が発生すると指摘されてきました。一方、海外では中国や米国を中心にヒューマノイドロボット開発が急速に進み、日本企業の存在感が問われる局面に入っています。
こうした状況下、TURING共同創業者である青木俊介氏が新たに立ち上げたのが、双腕二足ヒューマノイドAIロボットの開発に挑む株式会社アトム(以下、アトム)です。「日本のGDPを1%上げる」という大胆なビジョンを掲げ、シードラウンドで30億円という異例の規模の資金を調達し、注目を集めています。
本記事では、株式会社アトムの事業内容や資金調達動向、市場規模などを詳しく紹介していきます。
事業内容:Physical AIを搭載した双腕二足ヒューマノイドロボットの開発

アトムは、双腕二足のヒューマノイドAIロボットを開発するスタートアップです。同社が掲げるコンセプトは「新しい種の創造」。AIとロボティクスの進化を融合させ、人間と同じ作業環境で柔軟に動けるロボットの社会実装を目指しています。
Physical AIとロボット身体性の統合
同社の最大の特徴は、環境認識・判断・行動生成までを一気通貫で担う「Physical AI」と、人型の身体性を組み合わせた点にあります。従来の産業用アームや自律搬送台車(AGV)は、特定の作業や固定環境での利用が中心でした。これに対しヒューマノイド型なら、人間向けに設計された工場・倉庫・オフィスといった既存の作業空間にそのまま適応できる可能性を秘めています。
想定される導入領域
アトムが主に狙うのは、製造業と物流・運輸分野です。人手不足が顕在化している現場で、単純作業の代替や危険作業の支援を担うことを想定しています。双腕構造により部品の組立や箱詰めなど両手を使う作業に対応でき、二足歩行によって階段や狭い通路といった人間向けの環境でも稼働できる点が強みです。
開発体制とオープンな情報発信
ロボット本体の開発に加え、物理環境を再現する「世界モデル」の構築、サプライチェーン整備、データ収集センターの設計までを垂直統合で進めているのも特徴です。「ATOM Meetup」と称した見学イベントを定期開催し、東京都中央区晴海の拠点で開発ロボットや最先端の開発環境を公開する方針も示しており、業界関係者や研究者との接点を積極的に広げています。
スタートアップとしては異例の透明性の高さも、人材や提携先を惹きつける要因となっています。
資金調達:シードラウンドで総額30億円を調達

株式会社アトムは、シードラウンドで総額30億円の資金調達を実施したと発表しました。設立直後のスタートアップが調達する金額としては極めて大規模であり、ヒューマノイドAIロボット分野への期待の大きさが伝わってきます。
調達概要
- 調達額:総額30億円
- ラウンド:シードラウンド
- 共同リード投資家:ANRI、Beyond Next Ventures、ジャフコ グループ
- その他引受先:ALPHA、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、住商ベンチャー・パートナーズ、Blue Lab、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル
独立系VCに加え、政府系ファンド、メガバンク系VC、総合商社系VCなど多彩な投資家が顔を揃え、資金面のみならず事業ネットワークや産業界との連携支援も期待できる布陣です。
資金の使途
調達した資金は、主にAIエンジニアを中心とした人材採用、開発基盤の拡充、事業体制の強化に充てる予定です。具体的には、双腕二足ロボット本体の開発加速、Physical AIの学習に必要なデータ収集センターの設計・構築、現実環境をシミュレーションする「世界モデル」の開発、量産を見据えたサプライチェーン構築などを並行して進めるとしています。
JAFCOは「日本のGDPを1%上げるというアトム社の壮大なビジョンの実現に向けて全力で支援する」とコメント。住商ベンチャー・パートナーズも住友商事グループのネットワークを活かし中長期的に成長を後押しする姿勢を示しています。シードとしては破格の規模ながら、その先の量産フェーズを見据えた戦略的投資という位置づけです。
市場規模:年率40〜50%で拡大するヒューマノイドロボット市場
急成長が予測されるグローバル市場
ヒューマノイドロボット市場は、世界的に見ても最も成長期待が高い分野の一つです。Mordor Intelligenceの調査によれば、市場規模は2024年の32.6億ドルから2029年には230.7億ドルへと拡大し、年平均成長率(CAGR)は47.9%に達すると予測されています。
Fortune Business Insightsの予測では、2026年の62.4億ドルから2034年には1,651.3億ドル規模へとCAGR50.6%で拡大する見通しです。Morgan Stanleyはより長期的な視点に立ち、2050年には世界で10億台のヒューマノイドが展開され、関連収益が4.7兆ドル規模に達すると試算しています。
主要な応用分野
短中期では、自動車産業がヒューマノイド導入を牽引すると見られています。続いて物流・倉庫分野での採用が広がり、その後は小売・医療・介護といったサービス領域へと拡大していく見通しです。
日本市場と国産プレイヤーの重要性
日本では超高齢化による生産年齢人口の減少が確実視されており、製造業や医療・介護現場の労働力不足は深刻化が予想されます。三菱総合研究所などの分析でも、ヒューマノイドの積極活用は日本のGDP維持に不可欠とされています。
現状、ヒューマノイド開発は中国が先行し、米国ではBoston DynamicsやTesla Optimus、Figure AIなどが量産フェーズに突入しつつあります。こうした中、アトムは日本発のプレイヤーとして国内産業ニーズへの理解、国産AIモデルの開発、サプライチェーンの国内構築を強みに据え、国際競争力の確保を目指しています。
会社概要
- 会社名:株式会社アトム
- 所在地:東京都中央区晴海
- 設立年月日:2025年11月
- 代表者名:青木 俊介(代表取締役)
- 公式HP:https://atom-humanoid.com/
代表の青木俊介氏は、東京大学大学院修了後、カーネギーメロン大学で博士号を取得。米ゼネラルモーターズの自動運転ソフトウェア「Ultra Cruise」の設計・開発に携わった後、2021年に完全自動運転EVを目指すTURINGを共同創業しました。MITテクノロジーレビュージャパンの「Innovators Under 35」にも選出された研究者・起業家であり、大規模AIシステム設計の知見をヒューマノイド開発に転用しようとしています。
まとめ
株式会社アトムは、TURING共同創業者の青木俊介氏が新たに立ち上げた、双腕二足ヒューマノイドAIロボットの開発スタートアップです。Physical AIとロボット身体性の統合により、製造業や物流現場での社会実装と量産化を目指し、シードラウンドで30億円という大型調達を実現しました。
世界のヒューマノイド市場は今後10年で数十倍に拡大する見通しであり、日本のGDP維持にとっても国産プレイヤーの存在感は欠かせません。設立間もない同社が海外大手と肩を並べる存在へ成長できるか――その挑戦には、日本のロボティクス産業の未来そのものがかかっていると言っても過言ではないでしょう。「新しい種の創造」というビジョンが現実のものとなる日が楽しみです。
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