
地方の公共交通は、いま大きな転換点にあります。鉄道やバスの赤字路線の廃止・減便が相次ぎ、運転手不足も深刻化するなかで、「移動手段がない」という切実な課題を抱える地域が全国に広がっています。高齢者の通院、観光客の二次交通、通勤・通学──日常のあらゆる場面で「あと少しの移動」が難しくなっているのが現実です。
こうした社会課題に真正面から挑むのがBRJ株式会社です。同社は電動モビリティシェアリングサービス「TOCKLE(トックル)」を通じて、地方の交通空白を埋め、新しいライフスタイルを提案しています。都市部ではなく地方を主戦場に据え、自治体と密に連携しながら安全性を最優先に事業を進めている点も特徴的です。
本記事では、BRJ株式会社の事業内容や資金調達動向、市場規模について詳しく紹介します。
事業内容:地方の交通空白を埋める電動モビリティシェアリング「TOCKLE」
BRJ株式会社が展開する「TOCKLE」は、三輪電動シートボード、電動キックボード、電動アシスト自転車の3種類で構成される次世代マイクロモビリティのシェアリングサービスです。
スマートフォンアプリを通じて、各地に設置されたポートで貸出・返却を行うステーション型のモデルを採用しています。

料金プランは、基本料金50円+1分12円の時間貸しプランと、30日間4,000円で1回60分乗り放題となる定額プランの2種類が基本。加えて、福岡市では7日間乗り放題1,980円のウィークリープランも登場し、観光客や短期滞在者にとっても使いやすい設計になっています。支払いはアプリ内のクレジットカード決済で完結し、利用可能時間は4時から24時までです。
TOCKLEの最大の特徴は「安全性へのこだわり」にあります。GPSで走行エリアを検知し、進入禁止エリアに入ると自動的に車両を停止させるジオフェンシング機能を国内で唯一実装。このエリア設定は自治体が地域の実情に応じて柔軟に決められる仕組みで、住民の安心にも直結します。さらに、飲酒後の利用による事故リスクを排除するため、夜間運用を全面禁止しているのも他社との大きな違いです。「夜間こそ稼ぎ時」とされる業界常識をあえて否定し、利益より安全を優先する経営姿勢が貫かれています。
主なターゲットは、公共交通の選択肢が限られる地方の住民や観光客です。掛川市の実証実験「カケガワ de チョイノリ!」では、掛川城など地域資源を巡る新たな移動手段として活用されているほか、鹿島建設の広島呉道路トンネル工事現場では、広大な工事エリア内の移動効率化ツールとしても導入されました。
法人・個人事業主向けには、月額定額で専用車両を持てる「半所有」型サブスクリプション「MyTOCKLE Plus」も展開。ビルメンテナンスや訪問サービス、ホテル清掃など、近距離を頻繁に移動するビジネスシーンでの活用が広がっています。
資金調達:あいおいニッセイ同和損保との資本業務提携で加速
BRJ株式会社は、2023年8月31日にあいおいニッセイ同和損害保険株式会社と資本業務提携契約を締結しました。BRJが第三者割当増資により発行する株式をあいおいニッセイ同和損保が取得する形で、両社の協業をさらに加速させることを目的としています。

この提携の意味は、単なる資金面での支援にとどまりません。あいおいニッセイ同和損保が保有するテレマティクスデータ(走行データ)を活用することで、事故が起きやすい場所や危険なルートを分析し、ジオフェンシングによる「ノーライドゾーン」の設定に反映できるようになります。安全性と利便性の両立というシェアモビリティ最大の課題を、データドリブンで解決していく体制が整いつつあります。
トヨタレンタリース長野などの地元企業、広島大学スマートシティ共創コンソーシアムなど官学との連携も進んでおり、単独ではなくエコシステム全体で事業を成長させる戦略が鮮明になっています。
代表取締役の宮内秀明氏は、物流トラックのドライバーとして約10年のキャリアを積んだ後、大手物流会社の本部業務、海外スタートアップの日本進出責任者などを歴任した人物です。シンガポールで電動キックボードを利用した経験がきっかけとなり、取締役ファウンダーの吉永力氏とともに2020年12月にBRJを設立しました。トラックドライバー時代に培った「安全に対する真摯な姿勢」が、TOCKLEの安全設計思想の根幹を成しています。
2024年7月には旧ブランド「BIRD」から新ブランド「TOCKLE」へと刷新し、福岡アイランドシティでのサービス開始を皮切りに、全国展開を加速させています。
市場規模:拡大する電動マイクロモビリティ市場と地方の伸びしろ
世界のマイクロモビリティ市場は年率10%超で拡大
世界のマイクロモビリティ市場は急速に拡大しています。各種調査機関のレポートによれば、世界のマイクロモビリティ市場規模は2025年時点で約1975億ドル規模とされ、2030年までに年平均成長率7%で推移すると予測されています。カーボンニュートラルへの意識の高まり、都市部の渋滞問題、ラストワンマイル需要の増加が主な成長ドライバーです。

国内シェアモビリティ市場と地方における可能性
国内では、Luupが展開する「LUUP」が全国11,000カ所以上のポートを持つ最大手として存在感を放ち、米国発の「Lime」も参入するなど、市場は競争フェーズに入っています。ただし、これらの主要プレイヤーは東京・大阪などの大都市圏に集中しており、地方への展開は限定的です。
日本の地方部では、公共交通の維持が困難になる自治体が年々増えています。国土交通省の資料によれば、地域公共交通の課題を抱える自治体は全国の約9割にのぼり、「交通空白地」の解消は国策レベルの喫緊の課題となっています。
この市場は既存の大都市型サービスではカバーできず、TOCKLEのような地方特化・自治体連携型のサービスにとって、大きなブルーオーシャンが広がっているといえるでしょう。
TOCKLEのポジショニング
TOCKLEは、東京都立川市・千葉県流山市・福岡県福岡市への本格導入を皮切りに、山梨県甲府市、佐賀県佐賀市、高知県室戸市、静岡県掛川市、長野県長野市など多数の自治体で実証実験を進めています。競合が都市部に集中するなか、「地方 × 安全性 × 自治体連携」という独自のポジションを築いており、市場の伸びしろは非常に大きいと考えられます。
会社概要
- 会社名:BRJ株式会社
- 所在地:東京都(本社所在地)
- 設立年月日:2020年12月16日
- 代表者名:宮内 秀明(代表取締役)
- 公式HP:https://www.brj.jp/
まとめ
BRJ株式会社が展開する「TOCKLE」は、単なる新しい移動手段にとどまらず、地方の交通空白という深刻な社会課題に対する具体的な解決策として注目されています。ジオフェンシングによる安全設計、夜間運用の禁止、自治体との丁寧な合意形成など、「安全と信頼を最優先する」姿勢が事業の根幹にあり、この点が競合他社との明確な違いを生んでいます。
あいおいニッセイ同和損保との資本業務提携、鹿島建設の工事現場での導入、法人向け「MyTOCKLE Plus」の開始など、事業領域は着実に広がりを見せています。都市部だけでなく地方や産業現場までカバーする多様な展開は、これからの日本の移動インフラを支える存在へと成長する可能性を感じさせます。「人と街に感謝される未来の公共交通を創る」というビジョンのもと、BRJがどのように地方の景色を変えていくのか、今後の展開から目が離せません。
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